■事件の概要
1986年3月19日、福井県福井市の市営住宅で、女子中学生が殺害される事件が発生しました。この住宅にはその中学生と母親の2人が暮らしていましたが、当日の夜は、スナックに勤める母親は不在でした。女子中学生は灰皿で殴られ、電気コードで首を絞められ、コタツカバーで顔を覆われ、2本の包丁で50数箇所も刺されており、警察は、その残忍な殺害方法から、被害者と交友のあった非行グループのリンチ殺人として捜査をおこないましたが難航し、暗礁に乗り上げました。

事件から1年後、覚せい剤で逮捕されていた暴力団組員の「供述」から、警察は前川彰司さんを逮捕しました。前川さんは長時間による自白強要や暴行にも屈せず、「私は殺していない」と一貫して無実を主張しました。

この事件では、前川さんと事件を結びつける客観的な証拠は何もなく、自分の罪を軽くしてもらおうとした暴力団員とその仲間によるうその証言しかありません。その証言も不自然に変遷するものでした。

■裁判の経過

1審の福井地裁は、前川さんを犯人とする物的な証拠や目撃者がなく、具体的な犯行を明ら 
かにする証拠もなく、前川さんを「犯人」とする証人の証言は「信用できない」として、無罪としました。

しかし、2審の名古屋高裁金沢支部は、暴力団関係者の証言を「大筋で一致する」とか、「可能性がある」「それなりに首肯できる」と認定し、この証言のみで懲役7年の逆転有罪判決を言い渡し、最高裁は審理もせずにこれを追認しました。前川さんは、身に覚えのない冤罪によって刑務所に収監されました。

満期で出所した前川さんは、何としても濡れ衣を晴らしたいと、2004年7月、名古屋高裁金沢支部に、裁判のやり直しを求めて裁判をおこしました。

■有罪の根拠はない

暴力団員とその仲間による「証言」では、前川さんを事件の起きた市営住宅まで車で送り、前川さんは衣服に血をべったりとつけ、手や指には濡れた血がついて戻ってきたとされていますが、車からは血痕反応は出ておらず、前川さんの着ていた服についても、暴力団員の供述は「買い物袋に入れて家にもっていった」とか、「川に捨てた」「隠した」「忘れた」などと変転しており、結局、血のついた服は発見されませんでした。

鑑定では、現場の状況では、女子中学生はコタツカバーで覆われて刺されており、多量の血は付かなかった、その他の傷からも血の噴出はないとされ、犯人の服に大量の血がついた可能性はありません。また、再審請求審ではこれまで検察側が隠していた証拠が多数開示されて、関係者供述が警察の捜査の進展によって誘導され、変遷していることが明らかにされました。このように、事実と証拠は、前川さんが犯人でないことを明らかにしています。

名古屋高裁金沢支部では、これまで検察が隠していた関係者の捜査段階での供述調書や解剖時における写真などが開示されると同時に、法医学者の科学的鑑定や意見書の事実調べが行われ、その結果、前川さんを犯人とする根拠となる、客観的事実は存在しないとして再審開始の決定を出しました。

しかし、2013年3月6日、検察の異議申立てによっておこなわれた名古屋高裁では、弁護団が提出した新証拠を無視し、開示証拠や客観的状況と矛盾することが明白になった関係者供述に信用性を認めて、再審開始決定を取消しました。

前川さんは最高裁に特別抗告をしていましたが、最高裁第2小法廷(千葉勝美裁判長)は2014年12月10日、再審を認めない不当決定を行ないました。

2022年10月、第2次再審請求を名古屋高裁金沢支部に申立て。三者協議で2600点あると言われる証拠のうち138点の証拠が開示。

連絡先
日本国民救援会福井県本部
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