1952年、ハンセン病患者として県に通報されたFさん(当時28歳)が村職員を殺したとして逮捕。裁判で一貫して無実を訴えたものの非公開の特別法廷での予防着を着用した裁判官、検察官がゴム手袋をはめ、証拠物や調書も火箸でめくるなど予断と偏見の下で、十分な証拠調べもしないまま死刑が確定。62年、第3次再審請求棄却の翌日に死刑執行。最高検が再審請求をしないと公言する中、公募された市民が主権者として違法な判決は放置できない(憲法的再審請求権)として、2020年、熊本地裁に第4次再審請求をしてたたかっています。
(救援新聞2022年5月25日号より)

事件の概要
1951年、熊本県菊池郡内で、村内のハンセン病患者の動向を熊本県に対して報告する業務に従事していた村職員の衛生係主任Aさん宅でダイナマイトが破裂してAさんと息子が軽傷を
負いました(第1事件)。
警察は村内の男性Fさん(当時28歳)を逮捕。裁判では自白もなく、Fさんの犯行を裏付ける直接証拠はまったくないにもかかわらず、懲役10年の判決を受けました。判決が認定した動機は、ハンセン病(当時はらい病との呼称も)に罹患(りかん)していないにもかかわらず、ハンセン病患者として県に通報され、国立ハンセン病療養所菊池恵楓(けいふう)園(以下、恵楓園)への収容手続きがされたことを逆恨みしたものだとされました。Fさんを予断と偏見だけで犯人と決めつけています。
Fさんは無実であるのに有罪となったことに絶望し、「10年の濡れ衣に加えて、らい病と宣告されたなら刑が終わっても帰れず死んだと同じではないか。母や娘にひと目会ってその後に死のう」と、勾留されていた恵楓園内の熊本刑務所代用留置場から脱走。指名手配されていたさ中、さきのAさん(以下、被害者)が全身を刃物で20数か所刺され、殺される事件が発生しました(第2事件)。逃走中のFさんが犯人とされ、警察官にピストルで撃たれ逮捕。裁判で一貫して無実を訴えたものの死刑判決が確定したのち、62年、第3次再審請求の審理中に死刑執行されてしまったのです。

自白のみで死刑判決
現在熊本地裁に申し立てている第4次再審請求は、第2事件(殺人)を対象としています。
この確定判決の有罪認定を検証します。

・殺人の直接証拠は自白証拠のみです。しかし、その自白調書は、銃弾が貫通し腕の痛みを無視して取り調べがおこなわれ、警察官が強要・誘導して作文し、氏名を代書して、Fさんに指印
のみを押させたものでした。

・自白では草刈鎌で突き刺したことになっているのに、確定判決では凶器は短刀だとされて
います。その短刀には血痕の付着がなく、また、被害者の創傷は短刀ではできないことが、
その後の鑑定で明らかにされています。自白は強制されたものであり、信用性もありませ
ん。

・被害者の手には格闘したと思われる防御創があり、死体発見現場には大量の血痕があった
にもかかわらず、脱走以来同じ服を着ていたFさんの服に血痕の付着は一切認められません。
これはFさんが犯人でないことの決定的な証拠です。

・さらに、遺体の刺し傷跡には順手でできる傷と、逆手でないとできない傷があり、単独犯
ではなく、複数犯の可能性があります。

・叔父と大叔母の、「(Fさんから)犯行告白を聞いた」という供述が有罪の証拠として認定されていますが、のちに第3次再審請求で2人ともその供述は真実ではないと撤回しています。

ハンセン病差別の下
第1事件(ダイナマイト爆発)、第2事件(殺人)ともに判決が認定した動機は、村内におけるハンセン病患者の動向を熊本県に対して報告する業務に従事していた被害者が、ハンセン病に罹患していないにもかかわらず、ハンセン病患者として県に通報したことで、恵楓園への収容手続きがされたことを逆恨みしたものだとしています。
菊池事件が推移していた時期は、わが国のハンセン病隔離政策が最も過酷・野蛮に推進されていた時代でした。官民一体となって推進されていた「無らい県」運動は、「未収容のハンセン病患者の存在しない地域社会」を実現するために、ハンセン病は恐ろしい伝染病であるとの虚偽の情報が周知徹底されたのです。
それは、知事に対する、県民への一斉検診の開始、名簿作成、患者収容指示、家族らの検診義務、一般住民からの投書の奨励、一般住民に対する通報の奨励とこれを効果的に実現するために「ハンセン病は恐ろしい伝染病であり、患者らは、社会に危険と脅威を与える存在として、地域社会から排除し、隔離されなければならない」との宣伝として遂行されました。その効果・影響は、司法にも及び深く浸透しました。

最高裁も憲法違反認め
菊池事件は恵楓園内の「特別法廷」で裁かれました。「特別法廷」はハンセン病療養所内に設置された非公開の密室法廷で、被告人のFさん以外は白の防護服を着用し、ゴム手袋と箸で証拠物を取り扱うという措置でした。2016年になって最高裁は特別法廷に関する調査報告書、裁判官会議談話を公表し、憲法の裁判公開の原則に違反するとともに、数々の適正手続きに反する憲法違反がおこなわれたことを認め、謝罪しています。
しかし現在においても、厳しい偏見・差別が残っているなか、遺族はFさんの名誉回復を強く望みながらも、名前を出しての再審請求はきわめて困難な状況にあります。こうした事情を受けて、再審を準備する弁護団は、公の代表者として再審請求をなすべき責任を法定されている検察官に対して再審請求をおこなうようにねばり強く多様な方法で働きかけましたが、17年、最高検は再審請求はしないと決定。さらに弁護団が、検察が再審請求しないことは違法と国賠裁判を提訴。20年に熊本地裁は、検察官が再審を請求しないことの違法性は認めなかったものの、菊池事件の「特別法廷」での審理に憲法違反があったことを明確に認めました。

憲法的再審請求権
最高検が頑なに再審請求をしないとしている以上、本件では「無罪を言い渡すことを認めるべき明らかな証拠を新たに発見したとき」(刑事訴訟法435条6号)を再審事由とする再審請求の道は閉ざされています。遺族は今も続くハンセン病への差別と偏見のために再審請求できず、かといって無実の人の死刑判決をそのまま放置することはできないと、再審弁護団が苦慮した上で、憲法違反の判決を主権者として放置することはできないと、憲法的再審請求権を主張しています。
つまり、数々の憲法違反の手続きと裁判で誤った確定死刑判決を検察官に代わって再審請求をおこなうべき代替制度がないもとで、憲法12条により憲法保持義務を負う国民が、憲法16条の請願権を行使して、裁判所に対して確定判決について再審開始するべきかどうか検討するよう求めることが義務付けられているという主張です。
弁護団は、広く市民に申立人を公募し、その訴えに賛同した市民1205人を申立人として20年11月、熊本地裁に第4次再審請求を申し立てました。
誤った国策によるハンセン病隔離・差別・根絶策の犠牲者となったFさんの名誉回復を最終的に司法の場で果たすため、支援にとりくみます。

国民救援会と菊池事件
国民救援会は、控訴審判決後の1950年代から冤罪事件として運動を展開していました。第3次再審請求審の審理中に法務大臣の死刑執行命令が発出され、62年9月13日に熊本地裁で請求棄却決定がなされた翌14日(即時抗告申立て期限内で、その準備中の最中)にFさんの死刑執行がされてしまい、非業・無念の死を遂げました。
本人死亡により運動が一旦終結するという経過をたどり、今回の第4次再審請求で改めて支援を決めたものです。

  • 1952年7月7日 Aさんの遺体発見(これにより犯行日は前夜7月6日とされた)
  • 1952年7月10日 逮捕状発布
  • 1952年7月11日 叔父と大叔母の裁判官面前調書作成
  • 1952年7月12日 逮捕
  • 1952年8月 2日 起訴(単純逃走)
  • 1952年11月22日 追起訴(殺人)
  • 1953年 8月29日 一審判決(死刑)
  • 1954年12月13日 控訴審判決(控訴棄却)
  • 1957年8月23日 上告審判決(上告棄却)  ※口頭弁論2回
  • 1962年9月11日 法務大臣が死刑執行指揮書に署名
  • 1962年9月13日 第3次再審請求棄却(熊本地裁)
  • 1962年9月14日 福岡拘置所で死刑執行
  • 2012年11月7日 検事総長への再審請求要請書提出
  • 2013年11月6日 最高裁への特別法廷検証申入れ
  • 2016年4月25日 最高裁、特別法廷に関する調査報告書、裁判官会議談話を公表
  • 2017年3月31日 最高検、再審請求をしないと決定
  • 2017年8月29日 検察が再審請求しないことは違法と熊本地裁へ国賠を提訴
  • 2020年2月26日 熊本地裁は菊池国賠裁判で検察官の再審申立てについては認めなかったが、菊池事件の「特別法廷」での審理に憲法違法があったことを明確に認める
  • 2020年11月13日 熊本地裁に第4次再審請求
  • 2020年11月 第4次再審請求(写真提供:菊池事件の再審をすすめる会、ハンセン病国賠訴訟を支援する会・熊本)

弁護団は23年7月、有罪の根拠の一つとなった複数の親族の供述に矛盾があるとした、心理学者の鑑定書を新証拠として地裁に提出しました。2024年6月14日、熊本地裁は、弁護側が申請していた証人尋問について行うこと(8~10月)を事実上決定しました。

準備中

守る会の連絡先/署名等

フェイスブックページ菊池事件の再審を
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菊池事件の再審をすすめる会
http://www5b.biglobe.ne.jp/~naoko-k/kkchindex.html

菊池事件連続講座
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