■事件の概要
1961年(昭和36年)3月28日、三重県名張市葛尾の公民館において開かれた三奈の会(三重県葛尾と奈良県葛尾の生活改善クラブ)の年次総会終了後、懇親会の席上に出されたぶどう酒を飲んだ女性5名が死亡、12名が重軽傷を負うという事件が発生しました。ぶどう酒から有機燐系農薬(テップ剤)が発見されたため、名張警察署は、殺人事件として捜査を開始。ぶどう酒を公民館に運んだ奥西勝さん(当時35歳)が、事件の翌日から連日の取調べを受けて、5日目の深夜に自供したことにより4月3日逮捕され、4月24日、妻と愛人(いずれも事件で死亡)との三角関係を清算するための計画的殺人として起訴されました。

■一審無罪が一転、死刑に
1審の津地方裁判所は、1964年(昭和39年)12月23日、奥西勝さんの「自白」は信用できず、また、「検察官の並々ならぬ努力」で事件関係者の供述が不自然に一斉変更させられた結果、奥西勝さんにしか犯行機会がなかったことになったと捜査機関を批判し、無罪を言い渡しました。しかし、名古屋高裁は、1969年(昭和44年)9月10日、1審で否定されたぶどう酒の王冠上の傷痕が奥西さんの歯形といえるかという点についての新たな鑑定(松倉鑑定)などを根拠に、一転して死刑を宣告。奥西さんは、この逆転死刑判決に対して事実認定を争う場を奪われたまま、1972年(昭和47年)6月15日、最高裁第1小法廷の上告棄却により、死刑が
確定しました。

以来、奥西さんは、獄中から9回にわたって再審を申し立てましたが(第5次からは日本弁護士連合会の支援による申立)、3年半に及ぶ誤嚥性肺炎の闘病の末、2015年10月5日、八王子医療刑務所で亡くなりました。89歳でした。

■再審開始を勝ちとるも、獄死
その後、2015年11月6日、妹の岡美代子さんが10回目の再審を名古屋高等裁判所に申し立て、現在審理が行われています。
再審審理では、死刑判決の根拠となった王冠の傷痕鑑定(松倉鑑定)が不正鑑定であったこと(第5次)、実際に事件で使われた農薬は奥西勝さんが「自白」で使ったとした「ニッカリンT」ではなかったこと(第7次)などが明らかになり、2005年4月5日に名古屋高裁刑事第1部(小出錞一裁判長)が再審開始・死刑執行停止を決定しました。しかし翌年、同じ名古屋高裁(刑事第2部、門野博裁判長)が、何ら積極的な根拠は示さぬままに「ニッカリンT」であった可能性もあるとした上で、最後は「自白」があることを理由に再審開始決定を取り消してしまいました。最高裁は、こうした判断が「科学的知見に基づくものではない」として再度取り消し、審理を名古屋高裁に差し戻しましたが、差し戻された名古屋高裁の複数の裁判官は、いずれも単なる可能性や勝手な推論を持ち出して毒物が違っていたとの弁護団の主張を斥け、再審が開始されぬまま、奥西さんは獄死を余儀なくされてしまいました。

■協議を開くことなく再審を棄却し続ける裁判所
奥西さんの亡き後、妹の岡美代子さんが申し立てた第10次再審では、事件現場から押収されたぶどう酒ビンに巻かれていた封緘紙の裏側から製造時とは異なる糊成分が検出されたという「糊鑑定」が提出されました。封緘紙はいったん何者かによってはがされ、再度糊づけされていたことが明らかになりました。奥西さんの「自白」では、毒物を混入する際に封緘紙を火ばさみで突き上げて破ったとされており、「自白」と決定的に矛盾します。また、毒物混入時に密かにはがして毒を入れ、痕跡が残らないように再び張り直した「真犯人」の存在を強く疑わせる新証拠です。全く新たな観点での科学的新証拠ですので、これをきちんと評価するためには鑑定人の尋問などの事実調べが必要であり、また、こうした審理方針を決めるための裁判官・検察官・弁護人による進行協議(三者協議)が開催されるべきですが、名古屋高裁(刑事第1部 山口裕之裁判長)は申立から2年以上全く何もしないまま2017年12月8日に請求を棄却する不当決定を下しました。

弁護団による異議申立を審理する高裁刑事第2部の髙橋徹裁判長も同様に何もしない対応だったため、弁護団は不公平な判断がなされるおそれがあるとして担当裁判官の「忌避」を3度にわたって申し立てましたが、髙橋裁判官は「訴訟を遅延させる目的のみでなされた申立」だとして却下し続け、あげくには、2019年11月1日に突然「依願退官」してしまいました。

■弁護団が裁判官に面談し、真摯な審理を要求
その後、鹿野伸二裁判官が裁判長に就任し、同裁判官の下で初めて弁護団との面談が行われました。弁護団は、「糊鑑定」についての再測定申し入れや事件から59年が経過してもなお隠され続ける数々の証拠の開示などを裁判所に求めています。鹿野裁判官の下での真剣な審理が期待されます。

この事件は、2013年に映画「約束」(主演=仲代達矢、樹木希林さんらが出演)が、2019年には映画「眠る村」が全国で上映され、多くの感動をよんでいます。また、同じく死刑再審に取り組んでいる袴田事件の袴田巌さんとの映画「ふたりの死刑囚」も反響をよびました。

2022年3月3日、名古屋高裁(鹿野伸二裁判長)は再審請求を棄却する決定を出しました。
最高裁第三小法廷は、2024年1月29日、特別抗告を棄却。なお、裁判官の1名が再審開始の意見を表明しました。

事件リーフ
名張毒ぶどう酒事件の真実 とどけ!無実の叫び
署名用紙
奥西勝さんの無念を晴らし、名誉回復を求める要請書 (第11次再審)

連絡先
名張毒ぶどう酒事件の再審・無罪を勝ち取り、奥西勝さんの名誉を回復させる全国の会
〒 〒460-0011 名古屋市中区大須4-10-26 大須土方ドリームマンション401
TEL:052-684-5825 FAX:052-684-6355