電車内で携帯電話を使用していた女性に注意したことを逆恨みされ、痴漢にでっち上げられた沖田光男さんが、警察・検察・虚偽の申告をした女性を相手に起こした国賠訴訟で、11月7日、最高裁第2小法廷(津野修裁判長)が判決を言い渡し、沖田さんの訴えを棄却した高裁判決のうち、女性に対する部分を高裁に差し戻すよう命じました。客観的証拠を無視した捜査や裁判に警鐘を鳴らす勝利判決です。
判決には、47席の傍聴券を求めて102人が駆けつけました。法廷での言い渡しは主文のみ。女性側は、本人・代理人ともに姿を現しませんでした。
電話を注意し
「痴漢」の汚名
9年前の1999年、東京のJR中央線に乗車して帰宅途中だった沖田さんが、車内で携帯電話を使用していた女性に、「電車の中で電話してはいけない」と注意したところ、逆恨みされて痴漢にでっち上げられました。沖田さんは逮捕され、21日間身柄を拘束された後、不起訴になりました。
沖田さんは、自白を強要した警察と検察、虚偽の被害申告をした女性を相手に国賠訴訟を提起しました。
ところが裁判が始まり、沖田さんを不起訴とした検察の取調べ記録の開示を求めると、検察は「誤って廃棄した」という理由で開示を拒否。重要な証拠を意図的に隠した疑惑が持たれています。
裁判のなかで、身長が10センチも高い女性の腰に、沖田さんの股間が届かず、女性が主張する「被害」は不可能であることがわかりました。また、女性が通話していた相手が受話器ごしに聞いた話が、沖田さんの証言と合致する一方、痴漢をされたとする女性の証言とは矛盾することも明らかになりました。
しかし、一、二審ともに沖田さんが敗訴。警察などの不当逮捕を容認したうえ、沖田さんの股間を「下腹部を含む」と解釈を広げて女性を擁護。客観的証拠から目をそらし、女性の言い分を鵜呑みにして沖田さんを痴漢と認定し、訴えを退けました。
沖田さんは最高裁に上告。9月29日、高裁判決を見直す方向で口頭弁論が開かれました。
証拠無視した
判決は誤まり
判決は、女性が電話していた相手の話は、女性の供述と「看過しえない食い違い」がある一方、沖田さんの供述とは合致すると認め、高裁が電話相手の証人尋問を実施せずに沖田さんを痴漢と認定したことは、「審理不尽の結果、結論に影響を及ぼす明らかな法令の違反がある」として、判決の女性についての部分を破棄して差し戻し、高裁で再度審理を尽くすよう求めました。
今回の判決は、客観的な事実を重視する重要性を最高裁が指摘したもので、 「被害者」の話だけを鵜のみにしたこれまでの痴漢事件の捜査と刑事裁判手続きに警鐘を鳴らすものです。
捜査の不正を
正す「武器」に
「皆さん方とともに、判決を喜びあいたい」
判決後に行われた報告集会で挨拶する弁護団事務局長の吉田健一弁護士に、会場から拍手が送られました。
「判決は、警察・検察の責任を追及していない点や、沖田さんの痴漢行為を否定するところまで踏み込んでいない点は不十分だが、捜査の誤りを正していく武器にできる判決だ」と評価しました。
晴れ晴れとした顔で沖田さんが挨拶。「犯罪者の汚名を着せられていたが、今日返上した。この気持ちを最後の勝利へつなげていきたい。痴漢がなかったことを一番よく知っているのは、自称被害者の女性と私。ウソを言いつづけて生きる人生も、ウソが認められ犯罪者とされる人生も辛い。お互い真実が明らかになって、初めて人間として堂々と生きていける。今日の判決はその一歩になった。ひきつづき、真実を明らかにしていきたい」と言葉を詰まらせながら語りました。
真実を追及する舞台は東京高裁に移り、警察・検察の不正義をただす沖田さんのたたかいは続きます。
〈激励先〉〒190―0021 立川市羽衣町2―29―12 沖田国賠に勝利し警察・検察をただす会