2008年11月25日号
 
 
  東京・沖田国賠訴訟
痴漢の汚名を返上できた
最高裁 高裁の審理は不尽と差し戻す

 電車内で携帯電話を使用していた女性に注意したことを逆恨みされ、痴漢にでっち上げられた沖田光男さんが、警察・検察・虚偽の申告をした女性を相手に起こした国賠訴訟で、11月7日、最高裁第2小法廷(津野修裁判長)が判決を言い渡し、沖田さんの訴えを棄却した高裁判決のうち、女性に対する部分を高裁に差し戻すよう命じました。客観的証拠を無視した捜査や裁判に警鐘を鳴らす勝利判決です。

 判決には、47席の傍聴券を求めて102人が駆けつけました。法廷での言い渡しは主文のみ。女性側は、本人・代理人ともに姿を現しませんでした。

電話を注意し
「痴漢」の汚名

 9年前の1999年、東京のJR中央線に乗車して帰宅途中だった沖田さんが、車内で携帯電話を使用していた女性に、「電車の中で電話してはいけない」と注意したところ、逆恨みされて痴漢にでっち上げられました。沖田さんは逮捕され、21日間身柄を拘束された後、不起訴になりました。
 沖田さんは、自白を強要した警察と検察、虚偽の被害申告をした女性を相手に国賠訴訟を提起しました。
 ところが裁判が始まり、沖田さんを不起訴とした検察の取調べ記録の開示を求めると、検察は「誤って廃棄した」という理由で開示を拒否。重要な証拠を意図的に隠した疑惑が持たれています。
 裁判のなかで、身長が10センチも高い女性の腰に、沖田さんの股間が届かず、女性が主張する「被害」は不可能であることがわかりました。また、女性が通話していた相手が受話器ごしに聞いた話が、沖田さんの証言と合致する一方、痴漢をされたとする女性の証言とは矛盾することも明らかになりました。
 しかし、一、二審ともに沖田さんが敗訴。警察などの不当逮捕を容認したうえ、沖田さんの股間を「下腹部を含む」と解釈を広げて女性を擁護。客観的証拠から目をそらし、女性の言い分を鵜呑みにして沖田さんを痴漢と認定し、訴えを退けました。
 沖田さんは最高裁に上告。9月29日、高裁判決を見直す方向で口頭弁論が開かれました。

証拠無視した
判決は誤まり

 判決は、女性が電話していた相手の話は、女性の供述と「看過しえない食い違い」がある一方、沖田さんの供述とは合致すると認め、高裁が電話相手の証人尋問を実施せずに沖田さんを痴漢と認定したことは、「審理不尽の結果、結論に影響を及ぼす明らかな法令の違反がある」として、判決の女性についての部分を破棄して差し戻し、高裁で再度審理を尽くすよう求めました。
 今回の判決は、客観的な事実を重視する重要性を最高裁が指摘したもので、 「被害者」の話だけを鵜のみにしたこれまでの痴漢事件の捜査と刑事裁判手続きに警鐘を鳴らすものです。

捜査の不正を
正す「武器」に

 「皆さん方とともに、判決を喜びあいたい」
 判決後に行われた報告集会で挨拶する弁護団事務局長の吉田健一弁護士に、会場から拍手が送られました。
 「判決は、警察・検察の責任を追及していない点や、沖田さんの痴漢行為を否定するところまで踏み込んでいない点は不十分だが、捜査の誤りを正していく武器にできる判決だ」と評価しました。
 晴れ晴れとした顔で沖田さんが挨拶。「犯罪者の汚名を着せられていたが、今日返上した。この気持ちを最後の勝利へつなげていきたい。痴漢がなかったことを一番よく知っているのは、自称被害者の女性と私。ウソを言いつづけて生きる人生も、ウソが認められ犯罪者とされる人生も辛い。お互い真実が明らかになって、初めて人間として堂々と生きていける。今日の判決はその一歩になった。ひきつづき、真実を明らかにしていきたい」と言葉を詰まらせながら語りました。
 真実を追及する舞台は東京高裁に移り、警察・検察の不正義をただす沖田さんのたたかいは続きます。

〈激励先〉〒190―0021 立川市羽衣町2―29―12 沖田国賠に勝利し警察・検察をただす会

 
  東京・国公法弾圧堀越事件
学者が公安捜査を批判
盗撮など事前捜査は違法

 社会保険庁職員の堀越明男さんが日本共産党のビラを配布したことが国家公務員法の政治行為禁止規定に違反するとして逮捕・起訴された国公法弾圧堀越事件の控訴審第6回公判が11月5日、東京高裁で開かれ、関西学院大学の川崎英明教授が公安警察の捜査の違法性について証言しました。
 川崎教授は、捜査の特異性について、次のように述べました。
 @03年4月の(いっせい地方選挙の)捜査では、堀越さんのビラ配布行為を現認して国公法違反としての捜査を行ったのに送検せず、10月に解散・総選挙となって「ビラをまくかもしれない」と捜査が「再開」されたが、これは未発生の犯罪に対する事前捜査であり、憲法上も刑事訴訟法上も許されない。
 A捜査手法も、29日間毎日尾行して自宅と職場以外の行動をすべて把握しようとした、極めて深刻なプライバシー侵害があった。
 B所轄の月島署と警視庁公安部がはじめから協力して大規模な捜査態勢をとったことなど、もし事前捜査を認めれば公安警察の広範な情報収集活動を認めることになる。
 また川崎教授は、戦前、行政警察が強大な権限を持っており、行政検束も認められていたことに対して、戦後、犯罪発生以前の予防を担う行政警察と発生以降の捜査を行う司法警察に区分され、「事前捜査」を否定することが定説になっており、盗聴法(通信傍受法)も、将来犯罪に対する令状による盗聴を認めたが、こうした立場にたっても、本件のような微罪での事前捜査は想定しておらず、「本件捜査の違法性は強い」と証言しました。
 そして、未発生犯罪の事前捜査であった故に、「行動確認捜査」という特異な捜査手法が用いられ、そのために29日間の尾行とビデオによる盗撮が行われ、日ごとの行動概要を記録した「行動確認実施結果一覧表」がつくられたことについて、プライバシーの侵害、思想・信条の自由の侵害であり、この捜査が全体として違法捜査であり、公訴棄却の判断がなされるべき、と結論づけました。
 最後に、未提出の盗撮ビデオのテープは、この捜査の権利侵害をより正確に認定できる証拠となるものであり、開示されることを求める、と述べました。

 
  麻生政権初の死刑執行
国民救援会が抗議

 森英介法相は10月28日、2人の死刑執行を発表しました。麻生政権発足後、初の執行で、今年の死刑執行は15人となりました。
 これに対し国民救援会は30日、鈴木亜英会長名の抗議声明を発表。国際人権規定で死刑廃止の方向が打ち出され、世界の半数近い国で死刑が実質的に廃止されていることも指摘し、執行に抗議の意思を示しています。そして、死刑執行の停止と死刑廃止条約の批准を求めたうえで、死刑廃止をあらためて要求しています。