名古屋高裁刑事2部は、名張毒ぶどう酒事件の再審開始決定を取り消しました。裁判所は、科学的な証拠よりも奥西勝さんの「自白」を重視したのです。そこで、弁護団は、全米において、DNA鑑定などによって後に無実が証明された125件の虚偽自白を分析したノースウェスタン大学ロースクール付属の誤判救済センターに依頼し、意見書をまとめ、今年4月、最高裁に提出しました。いかに裁判所の判断が誤っているのかを実例にもとづき、厳しく批判しています。そのポイントを紹介します。(文責・編集部)
米で400人もの冤罪明らかに
アメリカでも誤判は珍しいことではない。1989年から少なくとも405人が冤罪と判明している。また、73年〜07年5月までに124人の死刑囚が冤罪と判明している。
無実の人に対する死刑執行は許されない行為であり、最大の不正義である。死刑にするには、合理的疑いを超えて絶対に有罪であることの確信が必要だ。
この基準によれば、名古屋高裁刑事2部の判断は、自白にあまりにも偏重しすぎている。自白について再検討すべく、再審開始を認めるべきである。
過去の研究から、誤判事案のうち、虚偽自白がされていたケースは14〜25%。虚偽の自白が関係する時に、誤判の危険は際立って高まると言われている。というのは、自白証拠が裁判における証拠として唯一最も強力なものであり得るからである。
被疑者が犯してもいない犯罪について虚偽に自白することがあることを理解して、そしてそのような自白がこの被疑者たちの運命を決定することを防ぐために、あらゆる努力がなされるべきである。
虚偽の「自白」81%が殺人で
高裁2部は、通常の人であれば、死刑をもって処罰されるような重大犯罪について自発的に虚偽自白をするようなことはない、と確信している。しかしこれは誤りである。
全米で自白が虚偽であると判明した125件を調べると、虚偽の自白のうち81%が殺人事件でなされている。
24時間以内の「自白」は89%
高裁2部は、取調べが比較的短いと判断し、無実であれば、ストレスのない取調べのもとでウソの自白は決してしないであろうと判断した。しかし、奥西氏の長期間の取調べは虚偽自白の危険な要素の一つである(別表参照)。
奥西氏は、自白までに49時間にも及ぶ取調べを受けており、その中には16時間も続く取調べも含まれている。アメリカでは、49時間は通常よりはるかに長時間であるし、自白の任意性について重大な問題を引き起こす。ある事件で連邦最高裁は、36時間に及ぶ実質的に継続した取調べが「本来的に強制である」と判示した。
先の125件の虚偽自白に関する実証研究のうち44件の事件において取調べ時間の情報を得た。その結果は、虚偽自白を引き出すまでの取調べの平均は16・3時間で、24時間以内での自白は89%、6時間以内の自白は16%であった。ある事件では、13時間の取調べで、寺院で9人を殺したとの虚偽自白をした。
「任意」でも虚偽の「自白」
高裁2部は、奥西氏に対する取調べに特別な強制は存在しなかったと結論づけ、任意の自白は極めて信用性がある、と言う。しかしアメリカでは、裁判所が「任意性がある」とした多くの自白が、のちに虚偽であると発覚している。
すべての取調べが最初から最後まで記録されていない限り、取調官が自白をいかにして獲得したのかを知ることは不可能であろう。その一方で、虚偽自白を示唆する兆候を探す責任は裁判官が負わなければならない。
警察の圧力がなくても、無実の人は虚偽の自白をしてきた。1932年に起きた、有名なパイロットの赤ちゃんが誘拐された事件では、実に200人以上もの人びとが犯罪について自白している。
最高裁は再審開始するべき
日本の最高裁は、無実の可能性のある人の死刑を執行したり、誤って収監し続けることがないということを担保し、合理的疑いを超えた証明を確保するために、奥西氏の自白の任意性と信用性、および他のすべての不利益証拠の証明力を再検証するために、再審開始を認めるべきである。
「自白」に至る取調べ経過
警察は、妻を亡くした奥西勝さんを連日警察署に連行し、6日にもわたり、以下のように長時間にわたり取調べを行いました。
3月28日 夕方に事件発生
29日 2時間取調べ
30日 6時間取調べ
31日 11時間取調べ
4月1日 13時間40分取調べ警察は奥西さんの自宅に泊まり、就寝中、トイレも監視。
2日 16時間10分取調べ夕方「自白」。「自白」までの取調べ時間は計49時間にも。
3日 8時間40分取調べ逮捕。