2008年11月15日号
 
 
  名張毒ぶどう酒事件
再審取消しに異議あり
米の誤判救済機関が最高裁に意見書

 名古屋高裁刑事2部は、名張毒ぶどう酒事件の再審開始決定を取り消しました。裁判所は、科学的な証拠よりも奥西勝さんの「自白」を重視したのです。そこで、弁護団は、全米において、DNA鑑定などによって後に無実が証明された125件の虚偽自白を分析したノースウェスタン大学ロースクール付属の誤判救済センターに依頼し、意見書をまとめ、今年4月、最高裁に提出しました。いかに裁判所の判断が誤っているのかを実例にもとづき、厳しく批判しています。そのポイントを紹介します。(文責・編集部)

米で400人もの冤罪明らかに

 アメリカでも誤判は珍しいことではない。1989年から少なくとも405人が冤罪と判明している。また、73年〜07年5月までに124人の死刑囚が冤罪と判明している。
 無実の人に対する死刑執行は許されない行為であり、最大の不正義である。死刑にするには、合理的疑いを超えて絶対に有罪であることの確信が必要だ。
 この基準によれば、名古屋高裁刑事2部の判断は、自白にあまりにも偏重しすぎている。自白について再検討すべく、再審開始を認めるべきである。
 過去の研究から、誤判事案のうち、虚偽自白がされていたケースは14〜25%。虚偽の自白が関係する時に、誤判の危険は際立って高まると言われている。というのは、自白証拠が裁判における証拠として唯一最も強力なものであり得るからである。
 被疑者が犯してもいない犯罪について虚偽に自白することがあることを理解して、そしてそのような自白がこの被疑者たちの運命を決定することを防ぐために、あらゆる努力がなされるべきである。

虚偽の「自白」81%が殺人で

 高裁2部は、通常の人であれば、死刑をもって処罰されるような重大犯罪について自発的に虚偽自白をするようなことはない、と確信している。しかしこれは誤りである。
 全米で自白が虚偽であると判明した125件を調べると、虚偽の自白のうち81%が殺人事件でなされている。

24時間以内の「自白」は89%

 高裁2部は、取調べが比較的短いと判断し、無実であれば、ストレスのない取調べのもとでウソの自白は決してしないであろうと判断した。しかし、奥西氏の長期間の取調べは虚偽自白の危険な要素の一つである(別表参照)。
 奥西氏は、自白までに49時間にも及ぶ取調べを受けており、その中には16時間も続く取調べも含まれている。アメリカでは、49時間は通常よりはるかに長時間であるし、自白の任意性について重大な問題を引き起こす。ある事件で連邦最高裁は、36時間に及ぶ実質的に継続した取調べが「本来的に強制である」と判示した。
 先の125件の虚偽自白に関する実証研究のうち44件の事件において取調べ時間の情報を得た。その結果は、虚偽自白を引き出すまでの取調べの平均は16・3時間で、24時間以内での自白は89%、6時間以内の自白は16%であった。ある事件では、13時間の取調べで、寺院で9人を殺したとの虚偽自白をした。

「任意」でも虚偽の「自白」

 高裁2部は、奥西氏に対する取調べに特別な強制は存在しなかったと結論づけ、任意の自白は極めて信用性がある、と言う。しかしアメリカでは、裁判所が「任意性がある」とした多くの自白が、のちに虚偽であると発覚している。
 すべての取調べが最初から最後まで記録されていない限り、取調官が自白をいかにして獲得したのかを知ることは不可能であろう。その一方で、虚偽自白を示唆する兆候を探す責任は裁判官が負わなければならない。
 警察の圧力がなくても、無実の人は虚偽の自白をしてきた。1932年に起きた、有名なパイロットの赤ちゃんが誘拐された事件では、実に200人以上もの人びとが犯罪について自白している。

最高裁は再審開始するべき

 日本の最高裁は、無実の可能性のある人の死刑を執行したり、誤って収監し続けることがないということを担保し、合理的疑いを超えた証明を確保するために、奥西氏の自白の任意性と信用性、および他のすべての不利益証拠の証明力を再検証するために、再審開始を認めるべきである。


「自白」に至る取調べ経過

 警察は、妻を亡くした奥西勝さんを連日警察署に連行し、6日にもわたり、以下のように長時間にわたり取調べを行いました。

3月28日 夕方に事件発生
  29日 2時間取調べ
  30日 6時間取調べ
  31日 11時間取調べ
4月1日 13時間40分取調べ警察は奥西さんの自宅に泊まり、就寝中、トイレも監視。
  2日 16時間10分取調べ夕方「自白」。「自白」までの取調べ時間は計49時間にも。
  3日 8時間40分取調べ逮捕。

 
  国連自由権規約委員会
表現活動への制限正せ
日本政府に改善を求め勧告

 国連自由権規約委員会は10月15、16の両日、スイスの国連欧州本部で、自由権規約にもとづく第5回日本政府報告書の審査を行いました(前号報道)。同委員会は審査をふまえ、総括所見を31日に発表しました。
 総括所見は、34項目にわたって、日本の人権問題を取り上げ、多くの点で遅れた人権状況について強い懸念を表明しました。
 所見では、第1選択議定書(個人通報制度)の批准、国内人権機関の設置、裁判官ら法曹に対する国際人権規約の教育について、冒頭で強く促しました。
 続けて、これまでも国連が繰り返し指摘してきた、死刑囚の処遇改善、代用監獄の廃止、被疑者の弁護人依頼権の保障、取調べの全面可視化、黙秘権の保障、自白偏重の中止、証拠の全面開示などがあげられています。
 さらに今回特徴的な点として、表現の自由にかかわる指摘をしています。所見では、選挙における戸別訪問禁止や法定外文書規制、また相次ぐビラ配布への弾圧や国家公務員法による弾圧などに関連して、「政府は、市民には表現の自由や政治に参与する権利があることをふまえるべきであり、警察、検察、裁判所などが市民による政治的意見表明やその他の活動を不当に制限することを防ぎ、そのような不合理な制限を課している法律は撤廃すべきである。自由権規約はそれを求めている」と厳しく指摘しています。
 国民救援会はこの総括所見の発表を受け、鈴木亜英会長名で声明を発表し、「この勧告がNGOの積年の努力から生み出されたものであることを改めて認識し、諸手をあげて賛成する」と評価し、「日本政府が指摘された人権の遅れを真(しん)摯(し)に受け止め、速やかに改善するように強く求める」と結んでいます。

 
  レッドパージ 日弁連が政府に勧告
名誉回復と補償を

 1950年、日本政府と財界は、アメリカ占領軍の命令を受け、全国で、日本共産党員とその支持者を職場から追放しました(レッドパージ)。日本弁護士連合会は10月27日、レッドパージをされた3人の人権救済の申立てを受け、調査の結果、政府や関係企業に対し速やかな名誉回復と補償を求める勧告を行いました。
 申し立てていたのは、兵庫県の大橋豊さん(電気通信省・当時)、川崎義啓さん(旭硝子)、安原清次郎(川崎製鉄)さん。3人は、いずれも日本共産党員であることを理由として免職・解雇されました。
 麻生総理あてに出された勧告書では、「特定の思想・信条を理由とする差別的取扱いであり、思想良心の自由、法の下の平等、結社の自由を侵害するものである」「申立人らは、免職・解雇によって、申立人らに非があるかのように取り扱われその名誉が害されただけでなく、生活の糧を失うことにより苦しい生活を強いられるなどの被害を被ってきた」とし、今日まで被害回復を放置してきた政府の「責任は重い」と指摘したうえで、速やかに名誉回復や補償を含む適切な措置を講じるよう勧告しています。

 
  島根県警交通事故隠蔽事件
「真相の究明を」現調と県警抗議

 国民救援会島根県本部、東京都本部、杉並支部は10月20日、島根県警交通事故隠(いん)蔽(ぺい)事件の現地調査と県警抗議・要請を15人の参加で行いました。
 東京・杉並支部の会員・木村荘一さんの実妹・小西静江さん(当時65歳)が、1993年、島根県松江市の路上で不慮の交通事故に遭いました。しかし、島根県警が「交通事故」の初動捜査を行いながら、「病気による転倒死」と不自然な処理を行いました。これに対し、木村さんが16年にわたって県警に真相究明を求めているものです。木村さんは83歳になったいまも、「死んでも警察は許さない」と、自宅を改造して「正しい日本にする木村荘一資料館」を今年開設。木村家の墓には、「島根県警を許さない」の入った墓碑を建立し、県警の責任を追及しつづけています。
 05年には、木村さんの努力で、参議院本会議で「苦情請願第1号」としてこの事故に関連して県警に対し誠実な対応を求める決議が採択されました。しかし、県警がこれを無視し、「病気による転倒死」とこれまでと同様に簡単に処理してしまいました。
 今回の抗議・要請は、採択された「苦情請願」の趣旨に沿って、正しい回答と謝罪をするよう行ったものです。
 参加者は、午前中に現地を調査、午後島根県警を訪れ、抗議・要請しました。
 要請では、県警の代表に対し、約1時間半にわたり、警察がどうして交通事故と認めないのか追及しました。これに対し、県警の代表は、「交通事故ではないと認識している」などとこれまでとかわらない説明に終始しました。
 なお、この行動を新聞社など数社が取材しました。