2008年11月5日号
 
 
  日本の人権状況を国連が審査
規約委員 日本政府を痛烈に批判
スイス・国連欧州本部

 国際人権規約にもとづき人権が守られているかどうかについての国連の日本審査が、10月15、16の両日、スイス・ジュネーヴの国連欧州本部で行われました。日本弁護士連合会やアムネスティ日本支部など、多くのNGO(非政府組織)が日本から参加。国民救援会からも3人の代表が参加し、国際人権活動日本委員会や自由法曹団など33人のNGO・個人とともに、自由権規約委員への働きかけ、審査の傍聴を行いました。参加した坂屋光裕中央常任委員がレポートします。

 日本を発って14時間、ジュネーブの空は高く、空気も澄んでいました。
 15日朝、穏やかな日差しのなか、要請団一行は静かに広がるレマン湖のほとりを歩き、審査会場の国連欧州本部に向かいました。

代用監獄や
 選挙弾圧も

 日本の当局は自由権規約をわかっていない――委員から痛烈な批判が飛び交う審査となりました。
 まず、日本政府代表団が、すでに国連に提出している報告書と同様の文書を読み上げ、6時間しかない審査時間の1時間半近くを費やしました。
 報告を受け、自由権規約委員から、国連でくり返し批判されている代用監獄制度に関し、強い批判も含むいくつかの質問が出されました。ある委員は「このような制度は日本のみであり、悪名高い」と批判。「自白を得るために24時間、昼も夜も取調べが続き、被疑者が自白を強要されるならば、自白の信用性が問われる」と厳しく批判しました。
 また、別の委員は自白の強要について、「刑事訴訟法で、自白だけで有罪とされることはないと書いてありながら、なぜ(強制された)自白が必要とされるのか。証拠があるのならば、自白は必要ない」と鋭く指摘しました。
 さらに、選挙における戸別訪問の禁止、ビラ配布に対する弾圧についても、「ポストにビラを入れることはどこの国でもやっているし、選挙で一般の人が戸別訪問をするのは、まさに普通のことであって、民主主義の根幹の活動だ」「主権の行使にかかわることだから、何らかの方法をとって自由にするべき」と、強い意見が出されました。
 この他、死刑執行の状況、刑事施設での被収容者の処遇などについて質問が出ました。

事件当事者
 国連に告発

 政府報告の審査に先立つ14日と15日、日本弁護士連合会の主催で、自由権規約委員と日本から参加したNGOとの公式ミーティングが国連内で持たれました。NGO代表がそれぞれ発言し、布川事件・桜井昌司さん、沖田国賠訴訟・沖田光男さん、選挙弾圧大石市議事件・大石忠昭さんもみずからの事件や体験を訴えました。桜井さんは、日本の警察・検察が自白を強要し、証拠隠しや偽造まですることや、裁判所が客観的な証拠を見ることなく強制された「自白」だけで被告を有罪とする実態を告発しました。
 審査のなかで委員から、多くのNGOが日本から参加していることにも意を強くしているとの発言も出され、NGOの参加が委員たちにとって励ましになっていることが分かりました。
 また、私たちが提出したカウンターレポートや公式ミーティングでの発言が委員の質問にも反映され、日本政府に対して指摘してもらえたと感じました。大変心強く思うとともに、これから日本で運動をさらに盛り上げることが大切だと強く感じました。

●国際人権規約とは

 第2次世界大戦後、「人類社会のすべての人は生まれながらに自由・平等で、人間らしく生きる権利を持っている」とうたった世界人権宣言が国連で採択されました。この宣言を実効あるものにするために国際人権規約が66年に採択されました(日本は79年批准)。
 批准国は、規約で保障された人権がどの程度確保されているのか、5年に1度、国連自由権規約委員会による審査をうけます。今回行われた審査は、「市民的及び政治的権利に関する国際規約(自由権規約)に関する第5回日本政府報告」に対して行われたもので、政府報告が5年も遅れたため、前回(98年)から10年ぶりの審査となりました。
 近年、国内でも国際人権規約などの国際条約を活用してたたかう事件が増えています。国民救援会は、日本の遅れた人権状況を告発し、改善を図るため、国際条約や国連からの勧告を国内の運動に積極的に活用しています。

 
  自由権規約国連審査
人権後進国 日本の実態を告発
国民救援会などが国連に提出した報告書

 今回の国連審査にむけて、国際人権活動日本委員会、治安維持法国賠同盟、自由法曹団、国民救援会の4団体は、日本政府の定期報告に対し、遅れた人権状況の実態を告発した報告書(カウンターレポート)を今年3月、国連に提出しました。レポートには、多くの人権問題について書かれていますが、ここでは、国民救援会の課題に関係する部分(要旨)を紹介します。

-冤罪事件-
「自白」を強要
 代用監獄制度

 被拘禁者の取調べを担当する警察が同時に被拘禁者の拘禁事務を担当する「代用監獄制度」は冤罪の温床であり、そのことは日本の法律家の間では常識とさえなっている。
 被疑者段階での勾留場所は通常、警察の留置場とされ、被疑者は24時間警察の監視下におかれ、深夜でも取調べが行われ自白を迫られる。否認を続ける被拘禁者は、食事から用便まで全生活を支配される中で、留置担当者から罵声(ばせい)を浴びせられ、人間としての尊厳を奪われ、「自白によってしか、その支配から逃れることはできない」という心理状態に陥り、やがて虚偽の自白をしてしまう。
 鹿児島県議会選挙をめぐり公職選挙法違反で起訴された12人の被告全員が無罪になった志布志事件では、警察は、取調べの際、床に置かれた紙に親や孫の言葉なるものを書き、それを足で無理やり踏ませて「自白」を迫る拷問を行っていたことが判明した。このような冤罪事件は全て「代用監獄制度」が生み出したものである。
 代用監獄制度は、「刑事上の罪に問われて逮捕され又は抑留された者は、裁判官又は司法権を行使することが法律によって認められている他の官憲の面前に速やかに連れて行かれる」と定める自由権規約9条3項に違反する。この条項は、裁判官の面前に連れて行かれた被疑者が、その後再び警察留置場に連れ戻されることを許容しているとは到底考えられないからである。
 また、代用監獄制度は、警察が被拘禁者の全生活を管理して長時間の取調べを行い自白を強要することを可能にする制度であるから、すべての者が「自己に不利益な供述又は有罪の自白を強要されない」とする規約14条3項に違反する。
 さらに、代用監獄制度は、食事から用便まで全生活を支配される中で、被拘禁者の人間としての尊厳を奪う制度であり、「何人も、拷問又は残虐な、非人道的な若(も)しくは品位を傷つける取扱い若しくは刑罰を受けない」との規約7条にも違反する。

-言論弾圧事件-
政府批判潰す
 ビラ配布弾圧

 昨今、東京をはじめとする都市部において、警察は、政治的意見を記載したビラを配布したというだけで、職務質問、任意同行、逮捕等を行っており、言論の自由をめぐる状況は従来にない様相となっている。マンションの集合及び各戸の郵便受けに毎日多数届けられる商業用のビラは不問に付されているにもかかわらず、政府に批判的な政治ビラだけが取り締まりの対象になっているところに重大な問題がある。
 政治ビラ配布は言論表現行為のひとつであり、最大限尊重されなくてはならない。
 政治ビラ配布にたいする逮捕及びその後の捜査を含む取り締まりは規約第19条(「干渉されることなく意見を持つ権利を有する。」「表現の自由についての権利を有する。この権利には、……あらゆる種類の情報及び考えを求め、受け及び伝える自由を含む。」―編集部)違反であり、これを敢行している警察捜査に対し、監督機関である国家公安委員会及び都道府県公安委員会は、適切な措置をとるべきであるのに、これを怠っている。

-国公法弾圧事件-
国家公務員の
 権利奪われる

 政治的主張を記載したビラを配布した者に対し、相次いで弾圧が行われている。
 行為者が一般民間人の場合、主として刑法の住居侵入罪の罪責を問われることが多いが、国家公務員の場合、主として国家公務員法違反をもって、罪責を問われている。国公法弾圧堀越事件と世田谷国公法弾圧事件である。
 国公法は、国家公務員の政治的行為を勤務時間外においても拘束する全面一律の禁止規定であることから、国家公務員の政治的行為に関わる市民的権利を全面的に束縛することになるとともに、規約の制限事由にも該当せず、目的に反した過剰な制約である。
 表現の自由は民主的社会に不可欠な礎のひとつであり、民主的社会の発展と各人の自己実現のための基本的条件のひとつである。表現の自由の対象になる規約19条の「情報及び考え」には、政府にとって不都合な情報や意見を当然に含む。ビラ配りは規約が保障する表現行為にあたる。
 国際人権規約の締約国における規約の実施を促進するための「一般的意見10」では、「締約国が表現の自由の行使に対し、一定の制限を附する場合、その制限は権利の本質を損なうようなものであってはならない」とされている。国公法の政治的行為の禁止は、国家公務員にも認められる表現の自由を制限するだけでなく、全面的にその権利を奪い取るものであり、規約の趣旨を脅かすものである。
 このような観点から、国家公務員の政治的行為を一律全面禁止し、違反行為に対し刑事制裁をもって処分を可能とする前記法条は規約19条に違反する。

 
  長野・ひき逃げえん罪事件
最高裁が不当決定 塚田さん懲役2年
多くの問題点検討せず

 長野・ひき逃げえん罪事件について、最高裁第2小法廷(今井功裁判長)は10月14日付で、二審の有罪判決を支持し、上告棄却の不当決定を行いました。
 事件は、06年、長野市内で、現職警察官がひき逃げされ死亡した事件で、近所に住む塚田学さん(当時25歳)が、7カ月後に突然逮捕、起訴されたものです。
 警察・検察は、「自白」と、塚田さんの車の底の部品の形と、被害者のジーパンに残っていた痕跡が「ほぼ同一」として、塚田さんが犯人だとしました。
 これに対し、弁護団は、@「自白」は警察で強要されたものである、Aジーパンの痕跡は、科学捜査研究所の鑑定人でさえ、一致しているとは言えない旨証言している、B塚田さんの車(ステップワゴン)には被害者をひいた痕跡はない、C事件当夜はステップワゴンには乗っていない、その車は犯行時刻には駐車場にあったことが目撃されている、D被害者は車の下で回転したとされているが、最低車高13aの塚田さんの車で、肩幅41aの被害者が骨折もせず回転するのは不可能、と主張しました。
 しかし、裁判所は、警察・検察の主張を信用し、一、二審とも懲役2年の不当判決を言い渡しました。
 最高裁は、弁護団が主張した問題点を十分検討しないまま、上告趣意書提出からわずか44日で上告を棄却しました。
 この不当決定によって、無実の塚田さんは懲役2年の服役を余儀なくされることになります。
〈抗議先〉〒102―8651 千代田区隼町4―2 最高裁第2小法廷・今井功裁判長
〈激励先〉〒381―0008 長野市下駒沢2408―7 中村方 塚田学さんを守る会

 
  栃木・足利事件
DNA、再鑑定へ
東京高裁が実施の方向

 菅家利和さんが誤った裁判のやり直し(再審)を求めている栃木・足利事件で、東京高裁(田中康郎裁判長)が、有罪の決め手となったDNA鑑定の再鑑定を行う方向であることが明らかになりました。
 90年、栃木県足利市で起きた、当時4歳の女の子の誘拐・殺人事件で、菅家さんが犯人として逮捕・起訴されました。菅家さんは無実を主張しましたが、女の子の遺体に残された体液と菅家さんのDNAの型が一致するとした警察の鑑定が有力な証拠となり、2000年に無期懲役が確定。菅家さんは、宇都宮地裁に再審を申し立てました。
 弁護団は、「当時の鑑定は精度が低く、信用できない」として、裁判所に対しDNAの再鑑定を行うよう強く求めてきました。しかし、宇都宮地裁はこれを拒み、弁護団が提出した鑑定(菅家さんと現場遺留のDNAの型は一致しない)も審理することなく、今年2月、請求を棄却しました。これに対し、弁護団は東京高裁に即時抗告しました。
 今回、東京高裁は、弁護団の要求を受け、再鑑定を検討。これに対し、検察官が「裁判所が実施するなら反対しない」との意見書を10月15日付で高裁に提出しました。
 再鑑定の結果によっては、菅家さんの無実が明らかになり、再審の扉を大きく広げることになります。

 
  菅家さん、守さんの処遇
千葉刑務所へ統一して要請

 千葉刑務所に服役している栃木・足利事件の菅家利和さんと、宮城・北陵クリニック事件の守大助さんの処遇改善を求めて、10月14日、初めての統一要請を行いました(写真)。当日は、首都圏の国民救援会と宮城、栃木両県本部、各守る会から18人が参加しました。
 要請では、菅家さんと守さんは再審を求めており、再審への取り組みや全国の支援者との面会・文通などで不当な制限をしないこと、医療や健康などに配慮することなどを申し入れました。
 当日は、菅家さんと守さんにそれぞれ3人が激励面会を行いました。面会者の報告では、菅家さんも守さんも元気な様子で面会室に笑顔で現れ、「再審めざしがんばるのでみなさんによろしく」との伝言がありました。