2008年10月5日号
 
 
  東京・世田谷国公法弾圧事件
公務員の権利認めず
東京地裁宇治橋さんに罰金10万

 厚生労働省職員の宇治橋眞一さんが、東京・世田谷区内にある警察官舎の集合ポストに「しんぶん赤旗」号外を配り、住居侵入として連行され、国家公務員法違反で起訴された世田谷国公法弾圧事件で、東京地裁(小池勝雅裁判長)は9月19日、罰金10万円の不当判決を言い渡しました。裁判所は、警察官の事件デッチ上げを追認した上、国公法・人事院規則の国家公務員の政治活動全面禁止規定を合憲とした34年前の猿払最高裁判決を無批判に支持しました。

 「主文、被告人を罰金10万円に処する」
 裁判長が表情を変えずに主文を述べると、傍聴席には湧き上がる怒りを押し殺すようにすっと静寂が広がりました。宇治橋さんは裁判長をじっと見据えて朗読される判決に耳を傾けました。

最高裁に従う
思考停止裁判

 裁判所は、宇治橋さんと弁護団の訴えを退け、検察側の主張を全面的に支持しました。
 事件当日、宇治橋さんは、ビラをまいているところを警察官である住民に通報され、現行犯逮捕とも聞かされず、有無を言わさず警察署に連行されました。この強制連行について、裁判所は警察・検察側の主張を鵜呑みにし、「違法性はなかった」と擁護しました。さらに、門から集合ポストまで48メートル入ったから私生活の平穏を害したなどという勝手な論理を展開し、起訴されてもいない住居侵入についても成立したとする極端なほど検察側に偏った判断をしました。
 国公法の違憲性については、休日に職場から離れた場所でビラを配る宇治橋さんの行為を、行政に対する国民の信頼を揺るがす行為だと極度に敵視しました。加えて30年以上前の猿払最高裁判決を持ち出して、学説などからも厳しい批判が集まったこの判決を「(国公法違反の)判決の解決指針として確立している」などと賛美し、あろうことか「下級審である当裁判所としては…同判決を尊重することが採るべき基本的な立場である」と、独立して職務を行い、法と良心のみに従うという裁判官の職責を自ら放棄する判決を言い渡しました。傍聴席からも「恥ずかしくないのか」との声が飛びました。
 また、諸外国では公務員の政治活動は自由であることが世界の常識であるにもかかわらず、「日本の公務員の自制力に対する国民の信頼」などが諸外国の事情とは違うなどと決め付け、世界の流れに目を背けました。
 弁護団は抗議声明を出し、「憲法21条が保障する表現の自由・政治活動の自由の意味…を全く理解しない」とし、「公務員の政治的自由を確立しようとする近時の国際的な流れにも完全に逆行するものであり、国際的な批判を免れない」と判決を厳しく批判しました。また、警察・検察の違法な逮捕・起訴の正当化についても「権力擁護の姿勢においてきわめて異常」と強く糾弾しました。

勝利するまで
連帯し闘おう

 判決後に平和と労働センターで行われた報告集会には80人が参加し、不当判決に抗議し、控訴審での勝利をめざそうと決意を固め合いました。会場には同じく国公法弾圧事件をたたかう堀越明男さんや葛飾ビラ配布弾圧事件の荒川庸生さんも顔をそろえ、連帯のあいさつをしました。
 弁護団事務局長の佐藤誠一弁護士は、「宇治橋さんがビラを配ったことで職務の中立性が阻害されたかどうか、裁判所は具体的な検討をいっさいしていない。それどころか、中立性が阻害されるかどうかは、裁判所には判断できないと明言して、裁判所の役割を放棄した。情けない判決だ」と批判しました。
 荒川さんは、「社会全体の運動が裁判の帰趨を決する。大きな連帯でともにがんばろう」と、堀越さんは、「全力をあげてともにたたかおう」と激励しました。
 最後に宇治橋さんが決意表明に立ち、「下級審だから、最高裁判決には逆らえないというのは、本当にだらしない。気概がない裁判官だと思う。ビラを配ったから国民の信頼を損なうという判断もおかしい。信頼性を求められるのは公務そのものであって、ビラ配布を規制すれば、信頼できる公務を遂行できるといえるのか。ビラ配布は国民の権利。この権利を守るためにやれることを尽くしていきたい」と決意を述べました。
 宇治橋さんと弁護団は控訴し、東京高裁での勝利をめざします。

〈抗議先〉〒100―8920 千代田区霞が関1―1―4 東京地裁・小池勝雅裁判長
〈激励先〉〒154―0004 世田谷区太子堂4―5―2 世田谷区労連気付 世田谷国公法弾圧を許さない会

 
  高知・サッカー落雷事故北村裁判
12年間のたたかい実る全面勝利
高松高裁 学校・主催者の責任認める

 学校の課外活動で参加したサッカーの試合中に落雷事故に遭い、重い障害を負った北村光寿さんとその家族が学校(高知市・私立土佐高校)と主催者(大阪・高槻市体育協会)の責任を追及し訴えていたサッカー落雷事故北村裁判の差戻審の判決が9月17日、高松高裁で言い渡されました。矢延正平裁判長は、高校と協会の安全配慮義務違反を認め、賠償金の支払いを命じる判決を言い渡しました。
 この裁判は、96年8月、大阪・高槻市で行われたサッカー交流試合の試合中に、当時、土佐高校の生徒だった北村さんが落雷を受け、両目失明、言語障害、手足が不自由になるなどの重い障害を負い、損害賠償裁判を起こしたものです。一・二審は、「落雷の予見は不可能」であったとして北村さんの請求を棄却しましたが、06年3月、最高裁が「落雷は予見可能であり、引率教諭は予見すべき注意義務を怠った」として、審理を高松高裁に差戻しました。
 差戻審で高校や協会は、落雷の予見ができても「(避雷に関する)知識をなんら有しておらず、速やかに生徒らを保護範囲(落雷を避けることの出来る安全空間のこと)に誘導することは全く不可能であった」と主張しました。この点について判決は、「学校や教諭が生徒の安全確保のため必要な一般的な科学的知見や知識を獲得する努力を怠っていれば、そのことの故に生徒の安全確保に係る責任を免れ得ることになるが、そのような帰結が不当であることは明らかである」と判断しました。
 今回の判決は、今後の学校災害の再発防止に向けた安全教育等の具体的対策をより前進させる契機となる判決です。
 「事故の責任所在を明らかにしたい。落雷事故による学校災害が二度と起こらないようにして欲しい」と12年間もたたかい続けてきた北村さん家族が、初めて勝ちとった全面勝利判決です。判決当日、裁判所前の約150人の支援者とともに勝利を喜びあいました。
 差戻審では、3万7040筆の署名と2298通にのぼる手紙・上申書が裁判所に届けられました。
 北村さん、弁護団、支援者は、判決の確定とともに、高校と協会が判決を厳粛に受け止め、すみやかに謝罪と補償するよう求めています。

□北村光寿さんの母・みずほさんのお話

 国民救援会の皆さまには、最高裁への上申書運動でお世話になりました。また差戻審でも、署名、上申書、裁判長への手紙を集めていただいたおかげで、勝訴判決を勝ちとることができました。16歳で重度重複障害を抱えた息子は、この判決を受けて、正々堂々と顔を上げて、生きて行くことができます。本当にありがとうございました。
〈激励先〉〒781―0112 高知市仁井田4491 北村方 北村裁判を支援する会

 
  大阪・オヤジ狩事件
4人目の「無罪」
警察の責任追及も検討

 2004年、大阪市住吉区で当時の大阪地裁所長が路上で襲われ、現金を奪われました。その犯人とされた5人うちの1人の元少年に対し、大阪高裁は9月17日、「再審無罪」とした大阪家裁の決定を支持し、検察側の抗告を棄却しました。少年法では、検察が再抗告できないため、元少年の「無罪」が確定しました。
 この事件では、警察が少年を片っ端から連行し、脅しや暴力による取調べで「自白」を強要し、5人の青年・少年を犯人に仕立て上げました。
 5人は無実を主張し、その結果、刑事裁判にかけられた藤本敦史さんと岡本太志さんの2人は今年5月に無罪が確定、少年審判にかけられた元少年のAさんも7月に不処分決定(刑事裁判の無罪判決)が確定しました。今回の「再審無罪」で、刑事裁判や少年審判にかけられた4人全員の「無罪」が確定しました。なお、残りの1人、当時13歳で児童相談所に通告された元少年のBさんは、昨年、国などを相手取り国家賠償裁判を提訴し、無実を訴えています。
 「無罪」を勝ちとった4人は、Bさん同様、警察や検察の違法・不当な捜査・起訴は許せないと、その責任を追及する国家賠償裁判を起こすことを検討しています。

 
  激励決議を不許可に
東京拘置所が受けとりを拒否

 7月末の国民救援会第54回全国大会で、獄中から無実を訴える人への激励決議を採択しました。中央本部は早速、決議を該当する刑事施設に送りました。
 ところが、静岡・袴田事件の死刑確定者・袴田巌さんに宛てて東京拘置所に送った決議文が返されてきました。これまでこのような対応はなく、他の刑事施設からは返されていないことから、その理由を拘置所に電話で問いただしたところ、「文書で提出してほしい」と言ってきました。そこで、文書で問いただしたところ、「差し入れ金品の引取りについて(通知)」という文書が送られてきました。「通知」には、決議文は審査した結果、差入れは不許可となった、引き取る場合は、窓口に来るか、送料着払いで送付するか、もし通知後6カ月を経過しても引き取らない場合は、処分するという内容でした。なぜ不許可にしたのか、その理由はいっさい書かれていません。
 日本の刑事施設の処遇、とりわけ死刑確定者の面会や通信の不当な制限については、国際人権規約委員会からも勧告で改善が求められています。
 国民救援会では、東京拘置所および法務省に対し、理由を問いただし、強く改善を求めていくことにしています。