厚生労働省職員の宇治橋眞一さんが、東京・世田谷区内にある警察官舎の集合ポストに「しんぶん赤旗」号外を配り、住居侵入として連行され、国家公務員法違反で起訴された世田谷国公法弾圧事件で、東京地裁(小池勝雅裁判長)は9月19日、罰金10万円の不当判決を言い渡しました。裁判所は、警察官の事件デッチ上げを追認した上、国公法・人事院規則の国家公務員の政治活動全面禁止規定を合憲とした34年前の猿払最高裁判決を無批判に支持しました。
「主文、被告人を罰金10万円に処する」
裁判長が表情を変えずに主文を述べると、傍聴席には湧き上がる怒りを押し殺すようにすっと静寂が広がりました。宇治橋さんは裁判長をじっと見据えて朗読される判決に耳を傾けました。
最高裁に従う
思考停止裁判
裁判所は、宇治橋さんと弁護団の訴えを退け、検察側の主張を全面的に支持しました。
事件当日、宇治橋さんは、ビラをまいているところを警察官である住民に通報され、現行犯逮捕とも聞かされず、有無を言わさず警察署に連行されました。この強制連行について、裁判所は警察・検察側の主張を鵜呑みにし、「違法性はなかった」と擁護しました。さらに、門から集合ポストまで48メートル入ったから私生活の平穏を害したなどという勝手な論理を展開し、起訴されてもいない住居侵入についても成立したとする極端なほど検察側に偏った判断をしました。
国公法の違憲性については、休日に職場から離れた場所でビラを配る宇治橋さんの行為を、行政に対する国民の信頼を揺るがす行為だと極度に敵視しました。加えて30年以上前の猿払最高裁判決を持ち出して、学説などからも厳しい批判が集まったこの判決を「(国公法違反の)判決の解決指針として確立している」などと賛美し、あろうことか「下級審である当裁判所としては…同判決を尊重することが採るべき基本的な立場である」と、独立して職務を行い、法と良心のみに従うという裁判官の職責を自ら放棄する判決を言い渡しました。傍聴席からも「恥ずかしくないのか」との声が飛びました。
また、諸外国では公務員の政治活動は自由であることが世界の常識であるにもかかわらず、「日本の公務員の自制力に対する国民の信頼」などが諸外国の事情とは違うなどと決め付け、世界の流れに目を背けました。
弁護団は抗議声明を出し、「憲法21条が保障する表現の自由・政治活動の自由の意味…を全く理解しない」とし、「公務員の政治的自由を確立しようとする近時の国際的な流れにも完全に逆行するものであり、国際的な批判を免れない」と判決を厳しく批判しました。また、警察・検察の違法な逮捕・起訴の正当化についても「権力擁護の姿勢においてきわめて異常」と強く糾弾しました。
勝利するまで
連帯し闘おう
判決後に平和と労働センターで行われた報告集会には80人が参加し、不当判決に抗議し、控訴審での勝利をめざそうと決意を固め合いました。会場には同じく国公法弾圧事件をたたかう堀越明男さんや葛飾ビラ配布弾圧事件の荒川庸生さんも顔をそろえ、連帯のあいさつをしました。
弁護団事務局長の佐藤誠一弁護士は、「宇治橋さんがビラを配ったことで職務の中立性が阻害されたかどうか、裁判所は具体的な検討をいっさいしていない。それどころか、中立性が阻害されるかどうかは、裁判所には判断できないと明言して、裁判所の役割を放棄した。情けない判決だ」と批判しました。
荒川さんは、「社会全体の運動が裁判の帰趨を決する。大きな連帯でともにがんばろう」と、堀越さんは、「全力をあげてともにたたかおう」と激励しました。
最後に宇治橋さんが決意表明に立ち、「下級審だから、最高裁判決には逆らえないというのは、本当にだらしない。気概がない裁判官だと思う。ビラを配ったから国民の信頼を損なうという判断もおかしい。信頼性を求められるのは公務そのものであって、ビラ配布を規制すれば、信頼できる公務を遂行できるといえるのか。ビラ配布は国民の権利。この権利を守るためにやれることを尽くしていきたい」と決意を述べました。
宇治橋さんと弁護団は控訴し、東京高裁での勝利をめざします。
〈抗議先〉〒100―8920 千代田区霞が関1―1―4 東京地裁・小池勝雅裁判長
〈激励先〉〒154―0004 世田谷区太子堂4―5―2 世田谷区労連気付 世田谷国公法弾圧を許さない会