2008年4月5日号
 
 
  福岡・引野口事件
片岸さん、無罪
警察の違法な捜査を断罪 「闘ってよかった」 片岸さん

 警察が送り込んだ同房女性のウソの供述だけで、殺人・放火事件の犯人として、片岸みつ子さんが裁判にかけられていた福岡・引野口(ひきのぐち)事件で、福岡地方裁判所小倉支部(田口直樹裁判長)は3月5日、殺人・放火について無罪判決を言い渡しました。判決は、同房女性を使い代用監獄(警察留置場)を利用した捜査は不当で、同房女性の証言も信用できないとして、警察の違法な捜査を批判しました。検察は控訴できず、3月19日に片岸さんの無罪が確定。逮捕から3年9カ月―真実を貫き通した片岸さんが自由を勝ちとりました。(記事は北九州総支部・山本和也さんからの通信)

 この日、裁判所には480人を越える市民が殺到、判決の行方を見守りました。傍聴者が固唾を呑む中「放火と殺人について無罪」の主文が読み上げられると、どよめきとともに大きな拍手が沸き起こりました。東敦子弁護士が法廷を飛び出し支援者の待つ玄関へ。「無罪」と書かれた垂れ幕を掲げると法廷のどよめきに共鳴するように、玄関先でも喜びの声と拍手で大騒ぎになりました。誰からともなくバンザーイの声。誘われて、みんなで大合唱になりました。
感動の対面
 片岸みつ子さんは、判決終了後ただちに釈放され、3年9カ月ぶりに子供たちと感動の対面を果たしました。その後、報告集会の会場に姿を見せると、参加者が口々に「片岸さんよかったね」と声をかけ、国民救援会北九州総支部が花束を贈り苦労をねぎらいました。
 片岸さんは、「3年9カ月、子供たちを守り支えてくださってありがとうございました。殺人と放火の汚名を着せられてきたが、真実は必ず明らかになると確信していました。闘ってきて良かったです」と、全国からの支援に感謝の気持ちを語りました。この後、記者会見に臨んだ片岸さんは、「救援新聞を読んで、しっかり頑張ろうと思っていた」と語り、国民救援会が心の支えの一つであったことを明らかにしました。
無罪が確定
 無罪判決後、片岸さんと「守る会」など支援者は、検察に控訴断念を求める運動を集中的に行い、検察庁への要請行動を繰り返しました。署名は2週間で、個人が1万筆、団体が500団体を超え、控訴期限の3月19日、ついに、検察庁が控訴を断念することを発表しました。
 検察の控訴断念をうけて記者会見を開いた片岸さんは、「どうして無実を証明するのにこんなに時間と労力がいるのか、無罪判決に犯行告白があったかの様な表現があることも、一部有罪ももちろん不満です。でも、この上、国を相手に刑事被告の立場で闘うには、身も心も疲れ果てました」と語り、冤罪犠牲者の苦しみ、そして一部有罪への不満の思いを表明しました。
 長男の和彦さんは、「全国のみなさんのご支援で母を取り戻すことが出来ました。機会を作ってお礼に参りますが、まずは、紙面で感謝の気持ちを伝えさせていただきます。ありがとうございました」と語っています。

〈激励先〉〒802−0016 北九州市小倉北区宇佐町1−7−36 国民救援会北九州総支部気付

 
  作られた引野口事件
代用監獄を利用し犯罪者に
引野口事件の問題点と判決のポイント

これまでの経過

 2004年3月24日、北九州市八幡西区引野の民家で火災が発生し、焼け跡から刃物で胸を刺された遺体が発見されました。警察は殺人放火事件として捜査を開始。被害者の妹・片岸みつ子さんが、兄の財産を独占する目的で殺害し放火したと目をつけました。しかし、片岸さんと犯行を結びつける証拠は一つもありません。そこで警察は、自白をとるために、窃盗と威力業務妨害容疑で片岸さんを別件逮捕します。窃盗については、片岸さんが被害者の生前の依頼どおりに被害者名義の預金を下ろしたもので、威力業務妨害についても、2年前におきた私人間のトラブルで、当時の警察は事件として取り上げなかったものでした。
 警察は、「お前が犯人だ」と、執拗に自白を迫りますが、片岸さんは一貫して否認を続けました。打つ手がなくなった警察は、覚せい剤の常習者で車上狙いなどで逮捕した女性をスパイに仕立て、片岸さんのいる警察の留置場(代用監獄)に同房させました。この同房女性は、警察に便宜をはかってもらうことを狙い、「片岸さんから(犯行告白を)聞いた」「(被害者の)首を刺したと言っていました」などとウソの供述を行い、片岸さんを犯人にでっち上げました。
 検察は、「犯行告白」を聞いたとする女性の供述を証拠として、この供述をもとに、保存されていた被害者の首の組織を再鑑定したところ、刺し傷を新たに発見したとして、真犯人しか知りえない「秘密の暴露」にあたると主張しました。これに対し片岸さんは、「犯行告白」などしていない、同房女性の供述はウソで、証拠能力はないと主張してたたかってきました。

判決のポイント

 自白のないこの裁判では、同房者の供述による「犯行告白」が、証拠となるのか、信用できるのかが中心的な争点となりました。
 判決はまず、同房者が証言した「犯行告白」を証拠能力がないと退け、検察の提出した鑑定にも疑問が残ると判断し、片岸さんに無罪を言い渡しました。以下、判決のポイントを見てみます。
【犯行告白の証拠能力】
 「犯行告白」に証拠能力がない理由について判決は、同房者を利用した捜査手法は、代用監獄への身柄拘束を捜査に利用したもので、適正手続きの観点からも捜査手法としての相当性を欠くと厳しく批判。また、同房者は、捜査機関に自らの処分を委ねている立場であり、捜査機関に迎合するおそれがあり、同房者を介して聴取する内容には虚偽が入り込む危険性があると指摘しました。
【秘密の暴露の存否】
 片岸さんが首を刺したとする「犯行告白」の裏付けであるとされた、被害者の首に新たに見つかった傷について、判決は、検察側が出した解剖鑑定からは、首の傷を生前の傷であると認めるには合理的な疑いが残り、したがって「首を刺した」と告白した点が「秘密の暴露」にあたるとはいえないとしました。
【犯行告白自体の存否】
 判決は、「犯行告白」に「秘密の暴露」がないことや、重要な点で変遷していることをあげ、信用できないとしました。しかし一方で、片岸さんが同房者に「犯行告白」をしたことは認められるとの不当な認定を行っています。
 なお別件逮捕に利用された窃盗と威力業務妨害については、懲役1年6月・執行猶予3年の不当な判決を行っています。

取調べ適正化を

 息子・和彦さんら家族が支援を訴えに全国を回り、地元をはじめとした支援の広がりによって、片岸さんは無罪判決を勝ちとりました。しかし、この事件の捜査と公判を通じて、警察・検察は片岸さんとその家族に生涯を通じて拭うことのできない苦痛を与えました。とりわけ、みつ子さんの夫・賢三さんを死に追い詰めた警察の不当捜査は、厳しく問われるべきです。
 捜査当局は、判決で厳しく指摘された違法な捜査手法を深く反省し、取調べ全過程の可視化を実現させることが求められています。

 
  冤罪なくそう
東京・銀座で大宣伝行動
10事件100人集う

 「おねえちゃん、風船ちょうだい」
 色とりどりの風船でデコレーションされた宣伝カーに子どもたちが駆けよってきます。子どもは風船を、親はビラを手にして繁華街に向かう人の流れに戻っていきます。
 冤罪事件の犠牲者、家族、支援者たちが東京・銀座で支援を呼びかけるイベント「えん罪リレートーク」が3月9日、名張事件東京守る会の呼びかけで行われ、名張事件をはじめ、北陵クリニック事件、布川事件、東電OL事件など10事件約100人が参加しました。参加者はグリーンのバンダナを身につけてマイクで支援を訴え、のぼりやプラカードを掲げてビラを配りました。休日の午後だったため、通行人は家族連れも多く、足を止めて訴えに聞き入る人やビラを読みながら歩く人が多く見受けられました。
 宣伝には鹿児島・志布志事件の川畑幸夫さんも参加。ジャーナリストの江川紹子さんも激励に駆けつけました。3月5日に無罪判決を勝ちとった福岡・引野口事件の片岸みつ子さんも急きょ参加し、マイクを握りました。片岸さんは、「亡き主人や子どもたちが、この3年9カ月どんな思いでいたことか」と声を詰まらせ、「もう私たちをこれ以上苦しめないで」と訴えました。
 昼の1時から夕方5時までの行動で2000枚のビラを配りました。多くのマスコミが取材に訪れ、翌日報道もされました。

 
  神奈川・古本屋店主強制わいせつ事件
「事件性なかった」と無罪

 強制わいせつおよび暴行容疑でOさんが逮捕・起訴され、無実を訴えていた神奈川・古本店主強制わいせつえん罪事件に対し、横浜地裁横須賀支部(忠鉢孝史裁判長)は3月18日、無罪判決を言い渡しました(求刑は懲役2年)。
 この事件は、Oさんが、経営する古本店で、アルバイト店員である2人の女子高校生に対し、乳房を揉むなどの強制わいせつおよび意に反した有形力の行使(暴行)を行ったとして、2005年5月に逮捕されたものです。Oさんは、1年半もの長期にわたって勾留されましたが、全く事実無根の作り話であると当初から否認し、起訴事実のような犯行ができないことは犯行現場とされる店を見てもらえればわかると無実を主張し、家族とともにたたかいました。
 判決は、Oさんの証言について、他の証人の証言との整合性があり、客観的な証拠の裏づけがあって「信用性は充分に存する」とし、その一方で「被害者」と言われる2人の女性の証言について、芝居じみており、矛盾や変遷が多く首尾一貫しておらず信用できないと述べ、「事件性はなかったことが強く推認される」としています。そして、起訴事実の「いずれについても合理的な疑いを容れない程度の立証がなく、犯罪の証明がないことに帰する」として無罪の結論を出しています。
 本件の真相は、「被害者」と言われる女性2人が、Oさんの娘さんにいたずらで「オーナーにセクハラされている」とメールを打ったことが発端で、話が大きくなって引き返せなくなり、事件になったものです。
 本件は以上のように、警察・検察のはじめから有罪を前提とした杜撰(ずさん)かつ意図的な捜査によって「創作」されたものであり、その作り話に沿って罪を認めるまで長期に勾留するという「人質司法」の典型ともいえる事件です。
 国民救援会は、弁護団会議に毎回出席しながら、Oさんの保釈のために支援者とともに署名を集め、裁判所への要請行動を行いました。また、公判時には毎回傍聴に参加し、裁判の節目には支援者とともに報告集会を開催してきました。
 無罪を勝ちとったOさんは、「いまの刑事裁判では99・9%有罪になると聞いていたので本当にうれしい。これも弁護団や救援会のみなさんが一生懸命にたたかっていただいたおかげです」とお礼を述べています。
 控訴をさせず無罪を確定させるたたかいでは、全国のみなさんから検察庁への要請や、激励のメッセージを頂きありがとうございました。

 
  東京・世田谷国公法弾圧事件
2学者が国公法批判
東京地裁 証拠調べ終え、次回求刑

 厚生労働省職員の宇治橋眞一さんが、休日に日本共産党のビラを配布したことが国家公務員法違反に問われている世田谷国公法弾圧事件の第20回公判が3月12日、東京地裁で開かれ、弁護側証人として早稲田大学大学院法務研究科の岡田正則教授(行政法)と、神奈川大学法科大学院長の阿部浩己教授(国際法)が証言しました。裁判は、この日の公判で証拠調べが終了し、次回4月16日の公判は、検察官の論告求刑が行われます。
 岡田証人は、まず、国公法の制定と戦後アメリカ占領軍総司令部によって改定が行われた経過を説明。とくに、刑事罰をもって国家公務員の政治活動を規制しようとしたことに対し、日本政府が阻止を試みたが奏功しなかった事実などを指摘。国公法弾圧堀越事件の一審有罪判決について、裁判所は行政犯と刑事犯を混同した、信じられない判断をしたと批判しました。また、捜査機関と人事院の関係について、まず人事院に知らせるべきであり、警察が横槍を入れ、起訴するようなことはあってはならず、違反があったからといって、即「右から左」というのはあってはならず、公務の民主的運営を阻害することになる、などと問題点を指摘。最後に、「政治的偏向」は、公選法の地位利用くらいが問われるもので、政治的行為は本来自由であると述べました。
 つづいて、阿部証人は、政治活動を禁止する国公法が憲法に違反しないとする最高裁の猿払事件判決当時と現在の大きな違いとして、日本が国際自由権規約を批准したことをあげて、「言論・表現活動の自由を保障した国際自由権規約に沿うように憲法解釈を改正する必要が生じている」と指摘。そのうえで、世界各国が、国際人権規約を適用させて国内の人権の向上に努めている事例も紹介し、日本の裁判所の正しい適用を求めました。
 公判後の報告会では、最終盤を向かえ、無罪判決を勝ちとるために、真実を知らせ、署名の協力を広げることを確認しました。

 
  抗議の声を
4事件に不当判決・決定

長野・ひき逃げえん罪事件
科学無視した判断 東京高裁

 塚田学さんが無実を訴えている長野・ひき逃げえん罪事件の控訴審第2回公判が3月5日、東京高裁で開かれ、田中康郎裁判長は、弁護団の事実調べ請求を認めずに判決を強行し、塚田さんの控訴を棄却する不当判決を言い渡しました。
 事件は、2006年に長野市内で、男性がひき逃げされ死亡し、その犯人として塚田さんが事件から7カ月後に逮捕・起訴され、長野地裁で懲役2年の不当判決を受け、控訴していたものです。
 弁護団は、塚田さんの車で被害者を轢(ひ)くことは不可能であることの実験報告書などの3点について事実調べを請求していましたが、裁判長は「事実調べを再開しない」と宣告。弁護団は異議を申立てましたが、裁判長は「本件は公判前整理手続が行われた事件であり、弁護側の立証は一審の結審前に行わなければならない」ことを理由に棄却しました。これに対し弁護団は重ねて事実調べを求めましたが、裁判長が「事実調べを行わない」としたため、弁護団は裁判長忌避を申し立てました。しかし、裁判所は申立てを簡易却下し、判決を言い渡しました。
 判決は、一審判決をなぞり、「被害者の着衣に残っていた模様と塚田さんの車の底の部品の形状がほぼ一致する」「人体は柔軟性があって伸縮するので車の下で回転するとして矛盾しない」などと科学を無視する不当な判断を行いました。
 判決後、塚田さんは、「不当判決は許せず、上告しました。無罪を求めてたたかいます」とあいさつし、最高裁での勝利めざし奮闘することを誓い合いました。
〈抗議先〉〒100−8933 千代田区霞が関1−1−4 東京高裁・田中康郎裁判長

東京・痴漢えん罪練馬駅事件
勝手な推測で有罪 東京地裁

 「被害者」の女性のそばに立っていたというだけで、「痴漢」に間違えられ、迷惑防止条例違反で裁判をたたかう東京・痴漢えん罪練馬駅事件のNさんに対し、東京地裁(楡井英夫裁判官)は3月24日、懲役4月・執行猶予3年の不当判決を言い渡しました。
 「被害者」は犯行を見ておらず、犯行中の手をつかんだものでもなく、振り向きざまにそばにあったNさんの右腕をつかんだにすぎません。しかし判決は、犯人をつかまえようと狙ってNさんの手をつかんだのだから間違いはないと、予断をもってNさんを犯人と断じました。また、警察の科学捜査研究所が行った微物鑑定によれば、Nさんの手指には、「被害者」が着ていたワンピースの構成繊維であるグレーの綿繊維が1本も付いていませんでした。起訴状では、ワンピースの上から臀部を触ったことになっていますが、専門家によれば、綿繊維はほつれやすく、手で触れば必ず付きます。しかしこの点については、触ったからといって必ず手につくとは限らないと、憶測で弁護団の主張を退けました。
 判決後の報告集会でNさんは「痴漢などやってないことは、私が一番わかっている。娘や息子を『犯罪者の子ども』にはできない。これからもご支援をよろしくお願いします」と訴えました。(小沢克至)
〈抗議先〉〒100−8920 東京都千代田区霞が関1−1−4 東京地裁・楡井英夫裁判官

静岡・スズキ思想差別裁判
思想差別を認めず 最高裁

 自動車メーカー「スズキ」による日本共産党員への思想差別は不当だと7人が訴えていた損害賠償裁判で、最高裁第1小法廷(横尾和子裁判長)は3月6日、上告理由に当たらないとして上告棄却、不受理の不当決定を行いました。
 一審は、スズキの反共労務政策を認め原告勝訴判決を言い渡しましたが、二審では請求棄却の逆転不当判決が出され、原告が上告していました。
 原告団と弁護団は声明で「スズキの職場から差別をなくし『自由にものが言え、働きやすい職場』をつくるためにこれからもたたかい続ける」と決意を表明しています。
〈抗議先〉〒102−8651 千代田区隼町4−2 最高裁第1小法廷・横尾和子裁判長

横浜事件再審裁判
権力犯罪追及せず 最高裁

 戦時下の言論弾圧事件・横浜事件の再審裁判で、最高裁第2小法廷は3月14日、一、二審の免訴(有罪か無罪かを判断しないまま裁判を打ち切る)判決を支持し、上告棄却の不当判決を言い渡しました。
 横浜事件は、敗戦直前に、特高警察が「共産主義運動の再建」なる架空の事件をでっち上げて、60人もの人びとを逮捕し拷問を加え、4人が虐殺されたという残虐な権力犯罪です。
 国民救援会は不当判決に対し、会長名で抗議声明を発表。声明は、「再審請求を認めた東京高裁は、拷問による虚偽自白を認定し、『無罪を言い渡すべき新証拠がある』と指摘していました。再審裁判は、これらの事実を解明し、請求人らに無罪を宣告するのが当然であった」と指摘、しかし最高裁は「真実を明らかにして権力犯罪の責任を明確にすべき責務を放棄した」と厳しく批判しています。
〈抗議先〉〒102−8651 千代田区隼町4−2 最高裁第2小法廷・今井功裁判長