2008年3月15日号
 
 
  宮城・北陵クリニック事件
最高裁が上告棄却 不当決定
科学的証拠を無視した決定

 宮城・北陵クリニック事件で、最高裁第3小法廷(藤田宙靖(ときやす)裁判長)は無実を訴えている守(もり)大助さんの訴えを「上告理由にあたらない」として2月25日付で棄却決定しました。守さんの無実を証明する科学的な証拠があるにもかかわらず、最高裁は実質的な審理をすることなしに不当な判断を行いました。

事件の経過

 この事件は2000年、宮城県仙台市にある北陵クリニックで、入院患者の容体が急変する事態が相次ぎ起こり、翌年1月、准看護師の守大助さんが逮捕され、ウソの「自白」をさせられ、犯人とされたものです。守さんは、患者の点滴に筋弛緩剤(筋肉の動きを弱める薬)を混入させたとして、殺人(1件)と殺人未遂(4件)で一、二審で無期懲役を受け、最高裁に上告していました。

多くの問題点

・急変の原因は他に

 起訴された5件の患者の容体急変は、筋弛緩剤の注入による症状ではなく、いずれも病気や薬の副作用、救急処置の不徹底などによるものであることが裁判のなかで明らかになりました。
 A子さん(当時11歳)の容体が急変したとき、副院長の医師は気管挿入をするなどの応急処置を行わず、A子さんはそのまま意識不明になりました。A子さんは「物が二重に見える」「のどが渇いた」と訴え、右半身をびくつかせ、何も言わなくなったとされています。筋弛緩剤が原因だとすれば、意識がなくなる前に呼吸困難に陥るはずですが、A子さんは「息苦しい」とは訴えていません。日本医科大学の小川龍教授は、「筋弛緩剤の効果とは矛盾している。けいれんが起きていることは、筋弛緩剤が効いていないことと同じだ」と証言しました。
 また、S子さん(当時89歳)は、容体急変のときに「左胸がくるしい」と訴えました。主治医だった二階堂院長は心筋梗塞による病死であると、裁判で証言をしています。
 そもそも患者の容体急変が続いた背景には、多額の負債を抱え経営難に陥った病院の体制に問題がありました。北陵クリニックは再建のために他の病院や高齢者施設から高齢患者を受け入れました。しかし、重篤患者を積極的に受け入れたにもかかわらず、救急処置ができる医師が配置されていませんでした。看護師の労働条件も悪く、一度に数人の看護師がやめることもありました。

・鑑定に重大な疑問

 守さんが点滴で患者の体内に筋弛緩剤を混入させた唯一の証拠として、検察は、起訴した5件の患者の血清、尿、点滴ボトルなどから、筋弛緩剤の主成分が検出されたとする鑑定を提出しました。しかし、鑑定で出された数値は、筋弛緩剤の主成分を質量分析して出る数値とは異なるもので、逆に筋弛緩剤が入っていなかったことを示すものです。また、鑑定で使用された資料が、患者本人のものかどうかを調べるDNA鑑定や血液検査はいっさい行われていません。さらに鑑定を行った大阪府警科捜研は、資料を「全量消費」したとして、検証するための再鑑定を不可能にしました。

・ウソの「自白」

 守さんが警察に強要されたウソの「自白」。裁判では、この「自白」が事実に基づかないことが証明されました。
 点滴ボトルに筋弛緩剤を混入させたとする守さんの「自白」の方法では、急変は起こりえないことが明らかにされました。検察も公判途中になって「点滴ボトルではなく、チューブに混入させた」と、守さんの「自白」を否定する主張へと変転しました。

・公正な裁判を阻害

 二審の仙台高裁では、田中亮一裁判長は弁護側が請求した証人などをすべて却下し、たった4回の公判で結審。弁護側の最終弁論もさせずに判決にもちこもうとしました。裁判長は、審理の再開を求める弁護団を次々に退廷させ、判決を強行しました。

命尽きるまで

 上告棄却決定がわかった翌日、宮城県本部の堤智子事務局長は仙台拘置支所を訪れ、守さんに面会しました。顔をひきつらせて面会室に入ってきた守さんからは、「昨夜は眠ったのか夢を見ているのか、ひと晩中ぐっすり眠ることはできなかった」「最高裁は真実を発見する気がなかったんだ。期待してたのに…」と悔しさと怒りの言葉が次々。「全国のみなさんによろしく伝えてほしい。大丈夫。オレは頑張れる」と、気丈に訴えました。
 守大助さんを支援する会と宮城県本部は3月1日、緊急に弁護団から報告を受けました。大助さんの両親がお礼を述べ、「今後も無実を晴らすため、命尽きるまで頑張ります」と決意を表明。大助さんのメッセージ(別掲)も紹介されました。支援する会と県本部は3月25日に、仙台市内のシルバーセンターで報告集会を行います。

〈抗議先〉〒102―0092 千代田区隼町4―2 最高裁第3小法廷・藤田宙靖裁判長
〈激励先〉〒984―0825 仙台市若林区古城2―2―1 守大助さん

 
  東京・国公法弾圧堀越事件
違法捜査の実態を調査 ビラ配布地域を歩く
 

 国公法弾圧堀越事件で、公安警察による違法捜査の跡をたどる第2回現地調査(国公法弾圧を許さず言論・表現の自由を守る会と中央区守る会の共催)が、2月16日、東京・中央区内で行われ、40人が参加しました。

 参加者はまず、晴海区民館に集まり、事件の学習を行いました。中央区守る会の丹野会長が、「堀越明男さんのプライバシーを侵害してまで行った『情報収集』と称する違法捜査は許せない。地域の住民へ幅広く事件を知らせていこう」とあいさつを行い、次に「国公法弾圧の事件の到達点」と題して、弁護団から報告を受け、ビデオを見て、公安警察による堀越さんの尾行・盗撮など違法捜査の実態を確認しました。その後、弁護団の説明を受けながら、堀越さんがビラを配布した地域である、「もんじゃ焼」で有名な、民家が密集する月島と高層マンションが林立する晴海地域をのぼりを掲げながら歩き、公安警察の監視・尾行の不当性を直接自分の目と足で実感しました。

 まとめの集会では、意見交換を行い、現地調査を踏まえ、「被告席に座るのは堀越さんではなく検察・公安だ」との思いを参加者一同大きくしました。
 最後に堀越さんが、「東京高裁での無罪判決を勝ちとるため全力で頑張ります」と力強い決意表明を行いました。参加者全員で、署名・宣伝・高裁への要請ハガキなど、いっそうの支援を強めようと確認して終了しました。

 
  大阪地裁所長オヤジ狩事件
別の少年も「無罪」に
岡本さん藤本さん 4月17日に二審判決

 2004年、大阪市住吉区内で、当時の大阪地裁所長が何者かに襲われたオヤジ狩り事件で、5人の少年(成人2人、少年3人)が犯人とされ、全員が無実を訴えています。
 2月28日、大阪家裁(大西良孝裁判長)は、5人の少年のうち、少年院送致の保護処分をうけ、その取りし消しを求めていた元少年(当時16歳)に対し、「自白は信用できない」として、刑事裁判の「再審無罪」にあたる、保護処分を取り消す決定を言い渡しました。
 この事件では、5人のうち、成人の2人、岡本太志さんと藤本敦史さんには刑事裁判の一審で無罪が言い渡され、別の少年審判では元少年が昨年12月、刑事裁判の「無罪」にあたる「非行事実なし」の不処分決定を受けています。
 国民救援会府本部では、少年らの無罪確定をめざしています。4月17日には、岡本さんと藤本さんに対する二審判決が大阪高裁で言い渡されます。全国からの支援をお願いします。
〈無罪要請先〉〒530−8521 大阪市北区西天満2−1−10 大阪高裁・若原正樹裁判長
〈激励先〉〒530−0041 大阪市北区天神橋1−13−15 大阪グリーン会館5階 国民救援会大阪府本部気付

 
  北海道・北洋銀行斉藤過労死裁判
二審も労災を認める

 北洋銀行野幌支店の営業課長・斉藤久江さんが過労死し、その労災認定を求めている斉藤過労死裁判について、札幌高裁は2月28日、一審の原告勝訴を支持する判決を言い渡しました。
 訴えていた夫・幸雄さんは一審判決を前に亡くなったため、裁判を引き継いだ娘の堀川美保さんがご両親の遺影を法廷に持ち込み判決を待ちました。「控訴を棄却する」――勝訴判決に傍聴席を埋めた支援者から拍手が涌き起こり、法廷内に喜びの空気が一気に広がりました。
 報告集会で、伊藤誠一弁護士は、くも膜下出血について労基署がよりどころにした医学者の意見を、高裁は「到底採用できない」と切り捨て、一審では必ずしも明確ではなかった持ち帰り残業の存在を認めたことなど、一審判決の内容を深めたものであり、全面勝訴の判決だと報告しました。その後、金融労連の仲聞や国民救援会道本部会長などがお祝いのあいさつを述べました。

 
  静岡・えん罪御殿場少年事件
最高裁での無罪へ集会

 最高裁での無罪をめざしたたかっているえん罪御殿場少年事件で2月16日、地元御殿場市において報告集会が開かれ、70人が参加しました。
 事件は、2001年、男性と会って遅くなった女子高校生が、それを隠すため、少年たちに強姦されそうになったとのウソがもとで、少年10人が不当逮捕され、うち4人が刑事裁判にかけられたものです。裁判で、女子高校生のウソが暴露されましたが、検察は「犯行日」を1週間変更。裁判所もそれを追認し、不当な実刑判決(一審は懲役2年、二審は一審判決を破棄し懲役1年6月に)を行い、元少年らは最高裁に上告しています。
 集会では、弁護団の鈴木勝利弁護士が報告に立ち、最高裁でも少年たちの無実を明らかにしていく決意を述べました。特に、「犯行日」が台風の接近した日に変更され、女子高校生の供述には雨のことがないことに関し、二審判決の「犯行時刻に雨の降っていないところもあった」との認定が気象学的に誤りであるという鑑定書を学者の協力で準備していることを明らかにし、最高裁への運動の強化を訴えました。
 国民救援会中央本部の芝崎孝夫さんは、最高裁では公判が開かれないので、裁判所に対し署名や「上申書」、要請行動を積極的に行おうと呼びかけました。
 守る会の諏訪部修事務局長は、新たにカラーのビラを3万枚作成したので積極的に活用し世論に訴えていこうと提起しました。参加者からは、御殿場市民や事件について心配している人も多いので率直な行動の呼びかけを広く行おうなどの発言が出されました。
 最後に、犯人とされた元少年たちや家族が、「最高裁で負ければ刑務所に行かねばならなくなります。誤った裁判を最高裁で正して、無罪を勝ちとるため大きな支援をお願いします」と訴えました。
 守る会では、集会をうけ、2月28日、静岡からの参加者8人をふくめて11人で、最高裁に対する宣伝・要請を行いました。
〈無罪要請先〉〒102―8651 千代田区隼町4―2 最高裁第1小法廷・横尾和子裁判長