・急変の原因は他に
起訴された5件の患者の容体急変は、筋弛緩剤の注入による症状ではなく、いずれも病気や薬の副作用、救急処置の不徹底などによるものであることが裁判のなかで明らかになりました。
A子さん(当時11歳)の容体が急変したとき、副院長の医師は気管挿入をするなどの応急処置を行わず、A子さんはそのまま意識不明になりました。A子さんは「物が二重に見える」「のどが渇いた」と訴え、右半身をびくつかせ、何も言わなくなったとされています。筋弛緩剤が原因だとすれば、意識がなくなる前に呼吸困難に陥るはずですが、A子さんは「息苦しい」とは訴えていません。日本医科大学の小川龍教授は、「筋弛緩剤の効果とは矛盾している。けいれんが起きていることは、筋弛緩剤が効いていないことと同じだ」と証言しました。
また、S子さん(当時89歳)は、容体急変のときに「左胸がくるしい」と訴えました。主治医だった二階堂院長は心筋梗塞による病死であると、裁判で証言をしています。
そもそも患者の容体急変が続いた背景には、多額の負債を抱え経営難に陥った病院の体制に問題がありました。北陵クリニックは再建のために他の病院や高齢者施設から高齢患者を受け入れました。しかし、重篤患者を積極的に受け入れたにもかかわらず、救急処置ができる医師が配置されていませんでした。看護師の労働条件も悪く、一度に数人の看護師がやめることもありました。
・鑑定に重大な疑問
守さんが点滴で患者の体内に筋弛緩剤を混入させた唯一の証拠として、検察は、起訴した5件の患者の血清、尿、点滴ボトルなどから、筋弛緩剤の主成分が検出されたとする鑑定を提出しました。しかし、鑑定で出された数値は、筋弛緩剤の主成分を質量分析して出る数値とは異なるもので、逆に筋弛緩剤が入っていなかったことを示すものです。また、鑑定で使用された資料が、患者本人のものかどうかを調べるDNA鑑定や血液検査はいっさい行われていません。さらに鑑定を行った大阪府警科捜研は、資料を「全量消費」したとして、検証するための再鑑定を不可能にしました。
・ウソの「自白」
守さんが警察に強要されたウソの「自白」。裁判では、この「自白」が事実に基づかないことが証明されました。
点滴ボトルに筋弛緩剤を混入させたとする守さんの「自白」の方法では、急変は起こりえないことが明らかにされました。検察も公判途中になって「点滴ボトルではなく、チューブに混入させた」と、守さんの「自白」を否定する主張へと変転しました。
・公正な裁判を阻害
二審の仙台高裁では、田中亮一裁判長は弁護側が請求した証人などをすべて却下し、たった4回の公判で結審。弁護側の最終弁論もさせずに判決にもちこもうとしました。裁判長は、審理の再開を求める弁護団を次々に退廷させ、判決を強行しました。
上告棄却決定がわかった翌日、宮城県本部の堤智子事務局長は仙台拘置支所を訪れ、守さんに面会しました。顔をひきつらせて面会室に入ってきた守さんからは、「昨夜は眠ったのか夢を見ているのか、ひと晩中ぐっすり眠ることはできなかった」「最高裁は真実を発見する気がなかったんだ。期待してたのに…」と悔しさと怒りの言葉が次々。「全国のみなさんによろしく伝えてほしい。大丈夫。オレは頑張れる」と、気丈に訴えました。
守大助さんを支援する会と宮城県本部は3月1日、緊急に弁護団から報告を受けました。大助さんの両親がお礼を述べ、「今後も無実を晴らすため、命尽きるまで頑張ります」と決意を表明。大助さんのメッセージ(別掲)も紹介されました。支援する会と県本部は3月25日に、仙台市内のシルバーセンターで報告集会を行います。
〈抗議先〉〒102―0092 千代田区隼町4―2 最高裁第3小法廷・藤田宙靖裁判長
〈激励先〉〒984―0825 仙台市若林区古城2―2―1 守大助さん