2008年2月25日号
 
 
  栃木・足利事件
再審認めぬ不当決定

 「私は犯人ではありません」――裁判所はまたも無実の叫びを聞き入れませんでした。幼女誘拐・殺人事件の犯人とされた菅家利和さんが一、二審、最高裁と無期懲役を言い渡され、再審(裁判のやり直し)を求めている栃木・足利事件に対し、宇都宮地裁(池田壽美子裁判長)は2月13日、再審請求を退ける不当決定を行いました。

 裁判所の門前で待ち構えていた支援者の前に、「不当決定」の垂れ幕を持った弁護士の姿が……。「あーっ」「不当決定だ」、再審開始への期待は落胆と怒りへと変わりました。支援者はすぐに裁判所に対し、「不当決定に抗議する!」「菅家さんは無実だ!」とシュプレヒコールを挙げ、抗議しました。

DNA鑑定と
「自白」で有罪

 事件は、1990年、栃木県足利市で、当時4歳の女の子が誘拐され、渡良瀬川河川敷で死体が発見された幼女誘拐・殺人・死体遺棄事件で、菅家利和さんが犯人とされたものです。警察は1年以上にわたり菅家さんを尾行し、ゴミとして捨てたティッシュを無断で「押収」し、そこについていた体液のDNA型が、被害者の下着に付いていた犯人のDNA型と一致したとして逮捕。菅家さんは、ウソの「自白」とDNA鑑定を理由に無期懲役の判決をうけました(2000年に確定)。その後、02年に千葉刑務所から再審を申し立てました。

審理尽くさぬ
決定許せない

 弁護団は、新しい証拠を提出し、菅家さんと犯人のDNA型は一致せず、警察のDNA鑑定は誤りであること(押田鑑定など)、また有罪判決は手で首を絞めて殺した(扼(やく)殺)としているが、実際には扼殺の痕はなく、後方から首をもって水溜りに顔を押し付けて溺死させた可能性が高いこと(鈴木鑑定など)、菅家さんの「自白」は客観的証拠と食い違い信用できないことなどを明らかにしてきました。また、最後まで、裁判所自身によるDNA型の再鑑定を求めてきました。
 これに対し、裁判所は、次のような不当な判断を行いました。

▼DNA鑑定について
 裁判所はDNA型の再鑑定を最後まで拒みました。他方で、弁護団が、獄中の菅家さんから毛髪を弁護人に送付してもらい、それを押田氏に鑑定してもらった証拠について、その毛髪が菅家さんのものかどうか裏づけがないとして、鑑定の内容に踏み込まずに切り捨てました。

▼殺害方法について
 鈴木鑑定については「一応傾聴するに値する」とする一方で、扼殺の可能性まで否定するものではないと、決めつけました。
 弁護団は、これらの判断に対し、押田鑑定の毛髪の裏づけについては、その立証を求めずに切り捨てたのは不当であり、鈴木鑑定についても可能性をもって否定するなど審理不尽だと述べ、再審の扉を開いた最高裁の白

鳥・財田川決定に従っていないと批判しました。白鳥・財田川決定は、再審で出された新しい証拠と確定前の証拠(旧証拠)を総合的に判断し合理的な疑いがあれば再審を開始するとしていますが、今回の決定は、新証拠を一つひとつ個別に判断して、その新証拠だけで確定判決を覆すことを求めており、再審のハードルを不当に高くしています。

これは、「無辜(むこ)の救済」という再審の理念を後退させるものです。

決定に負けず
再審勝ちとる

無罪まで頑張る
菅家利和さん

 今度の裁判官はわかってくれると思っていた。どうしてわかってくれないのか。いま目の前に裁判官がいたら文句を言いたい気持ちだ。
 一回でも裁判所に呼んでもらい話をさせてもらいたかった。自分の話も聞かずに棄却決定を出すのはおかしい。鑑定をやらないで決定を出すのなら、開始決定だと思っていた。直接自分の話も聞かないし、DNA鑑定もしない。それだったらどうして再審を開始しないのか。
 ここまで支援してくれたみなさんには、本当に感謝しています。これからも無罪になるまで頑張るので、よろしくお願いします。

 決定後、県庁記者クラブで、記者会見と支援者への報告が行われました。弁護団は、決定の問題点を指摘し、即時抗告し、高裁で再審開始を勝ちとる決意を述べました。また、菅家さんのコメント(別掲)も紹介され、面会した弁護人から不当決定を聞いた菅家さんは「あー」と声をあげ、うつむき、涙声で弁護人と会話したことが報告されました。
 支援者は、不当決定に負けず、必ず再審を勝ちとり、菅家さんの冤罪を晴らそうと決意を固め合いました。
〈抗議先〉 〒320―8505 宇都宮市小幡1 ― 1 ― 38 宇都宮地裁・池田壽美子裁判長

 
  「志布志事件、冤罪でない」と暴言
鳩山法相は辞任せよ
国民救援会抗議声明

 鳩山邦夫法務大臣は2月13日、法務省で開かれた検察幹部の会議において、無罪判決が確定した鹿児島・志布志事件について「冤罪と呼ぶべきではない」と発言しました。この発言に対し国民救援会は14日、「断じて許すことができない」として、鳩山法相の辞任・罷免を求める会長声明を発表しました。
 声明では、「今回の発言は、国民の人権を守るべき責務を担う法務大臣として信じ難い恐るべき、そして恥ずべき放言・暴言」であると批判。そして、この事件が、検察が有罪を立証できず、一審で無罪判決が確定したこと、警察の見込み捜査によって関係者を不当に逮捕し、自白を強要したことが裁判で断罪されたことなどを指摘し、「事件は、警察、検察が合同して作りあげた典型的な冤罪事件」であると厳しく批判しています。その上で、昨年9月の「死刑の自動執行」発言につづく、今回の発言を行った鳩山法務大臣の即時辞任・罷免を強く求めています。

 
  国公法弾圧2事件
職務 左右されない
元国公労連役員が証言 政治的主義・主張で

 国家公務員が日本共産党のビラを配布して弾圧された国公法弾圧堀越事件(堀越明男さん)の公判が2月6日に東京高裁で、また13日には世田谷国公法弾圧事件(宇治橋眞一さん)の公判が東京地裁で開かれ、両公判で元国公労連副委員長の山瀬徳行さんが、公務員の政治活動禁止は時代錯誤であり、憲法違反であることを証言しました。
 山瀬さんは、厚生労働省の労働基準監督官として働き、また全労働省労働組合、国公労連の役員を歴任しており、その経験から、国家公務員の職務については公務員法などの法律や通達、法令などで仕事のルールが決められており、また職場で協力して仕事をするので個々の公務員の政治的な主義・主張で職務が左右されることはないときっぱりと証言しました。
 また、政府の「構造改革路線」の下で、独立法人化などで国家公務員が約8万人も非公務員になっており、猿払事件が発生した郵政でも民営化で20万人以上の職員が国公法の適用を受けなくなったことを指摘。これについて国会でも政治活動の禁止がなくなると困るという議論は一つもなく、この規制は不要なものであったと述べました。
 そして、政治活動を自由にすると「職務の遂行に党派的な偏向を招く」とした猿払事件最高裁判決について、「そんなことは現実を知らないことによる判断だ」と批判し、国家公務員の職場にも特定の政党を支持する連合などの労働組合はあるが、「それによって公務の中立性は害されない」「主義・主張によって行政を左右することはできない」と証言し、むしろ高級公務員の地位利用こそ問題である、と指摘しました。
 さらに、全労連の代表として公務員労働者の権利について国連のILO(国際労働機関)に提訴したことがあり、ILOが日本政府に公務員に労働基本権を与えるように勧告したこと、その際、イギリスなどで公務員制度の調査を行ったが、一部の上級公務員を除けば政治活動の規制はなく、日本のように地位や身分を問わず一律に刑罰で規制している国はない、と証言しました。
 最後に、弁護団から「裁判官に対して述べたいこと」を質問され、山瀬さんは「私や堀越さんたちは憲法が要請する国民の基本的人権を保障するため働いている」「公務員の権利の水準はその国の民主主義のバロメーターであり、公務員の労働基本権と政治活動禁止は『世界の恥』である」、「公務員は憲法を守るという服務の宣誓をするが、裁判官も憲法の遵守義務を負っている。憲法理念にそった判決をお願いしたい」と強調し、証言が終わると、傍聴席から拍手が起こりました。
 なお、両事件とも裁判所要請を行いました。国公法弾圧堀越事件では、団体署名26(累計920団体)、個人署名6659筆(累計4万9838筆)を提出、また、世田谷国公法弾圧事件も、団体署名118(累計1263団体)、個人1万1015筆(累計4万7625筆)を提出しました。

 
  「君が代」拒否者の氏名収集
県本部 県教委に抗議

 神奈川県教育委員会は2月4日、「君が代」斉唱時に起立しなかった教職員の氏名収集を継続的に実施することを決めました。この決定に対し、国民救援会神奈川県本部は、県個人情報保護条例および憲法に違反するとして、6日、JR関内駅で11人の参加で抗議宣伝を行い、7日の常任委員会で抗議声明を採択し、県教委に送りました。
 声明では、@昨年、県個人情報保護審査会が、氏名収集は条例で禁じた「思想・信条の個人情報」の収集に当たるとして、収集した名簿の利用を中止すべきだとする答申を行い、県教委が収集した資料を廃棄し、今年に入り、県教委から諮問された県個人情報保護審議会は「収集は不適当」との判断を下している、A一昨年、東京地裁判決で、入学式などで国旗・国歌を強制するのは思想、良心の権利を侵害しており、氏名収集は憲法に反すると判決している、B国旗・国歌法制定にあたって、政府は国旗の掲揚等に関し義務づけを行わない旨の答弁をしている、と指摘。これらに反する今回の決定に対して、「断固抗議すると共に、今回の決定を取り消すまで多くの県民と連帯して闘う」ことを表明しています。
 県本部は引き続き、神奈川労連、自由法曹団などと連携して運動をすすめることを確認しています。

 
  判決など重要局面の2事件
無実の人は無罪に
急いで裁判所へ要請の集中を

●福岡・引野口事件
無罪を求めて市民集会

 片岸みつ子さんが無実を訴える引野口事件は、3月5日に一審判決を控え、2月3日に地元・北九州市八幡西区で「片岸みつ子さんの無罪判決を求める市民の集い」(片岸兄弟を支える会・片岸みつ子さんを守る会・同事件弁護団の共催)を開き、250人の市民が駆けつけました。
 弁護団報告に立った秋月弁護士は、同房女性をスパイとして使った犯行「告白」のデッチ上げを根幹とする警察・検察の違法捜査と立証を厳しく批判、それに関係する法医学鑑定などにも充分に反証でき、「無罪判決を確信している」と力強く述べました。
 つづいて、「えん罪を無くす為に、私の経験と想い」と題して、松本サリン事件の河野義行さんが講演。河野さんは、「昨年9月のシンポジウム以来、母親救出のために真摯に活動する片岸兄妹に接して感銘を受け、すっかりファンになった」と突然の告白で会場を沸かせたあと、自らの経験を元に松本サリン事件での警察の手口と、それに対する河野さんの対応を詳細に報告し、引野口事件についても「無罪判決を信じている」と述べました。この集会には、薬害肝炎福岡訴訟原告の小林邦丘さんなどから連帯と激励の挨拶がありました。
 最後に挨拶に立った長男・和彦さんは、事件発生以来のさまざまな出来事、母親の逮捕や父親の自殺、家宅捜索の日々、刑事裁判の現実を知ったときの絶望感と不安など、初めてあかすことにもふれながら、「そんな私たち兄妹を守り支えて下さったのは、支える会の皆さんや救援会・守る会の皆さんでした。3月5日には、なんとしても無罪判決を勝ちとりたい気持ちでいっぱいです。一層のご支援をお願いします。」と訴え、大きな拍手に包まれました。守る会では、最後の最後まで、要請署名や要請はがきに取り組むことにしています。(山本和也)
〈無罪要請先〉〒803―8531 北九州市小倉北区金田1―4―1 福岡地裁小倉支部・田口直樹裁判長

●長野・えん罪ひき逃げ事件
弁論再開し審理尽くせ

 塚田学さんが無実を訴えているえん罪ひき逃げ事件で、2月6日、長野市内の塚田さんの地元で5回目の報告集会を行い、過去最高の54人が参加しました。
 最初に岡田弁護士が報告に立ち、一審有罪判決が間違っている点を指摘し、二審の裁判について報告を行いました。二審では、信州大学の名倉鑑定が採用されたものの、現地調査の実施や「事故車」とされている塚田さんの車を調べてもらうよう申請したが裁判所は却下、3月5日に判決日を指定したが、弁護側の鑑定書を見て弁論再開は検討するとしたことなど、報告しました。
 塚田さんが訴えに立ち、「証拠をきちんと見てもらえず、自白調書だけで判決を出そうとしています。このままではやってもいないのに2年も刑務所に行かなければなりません。無罪を勝ちとり、自由になりたいのでご支援をお願いします」と支援を訴えました。集会では裁判所への署名、要請ハガキなど運動をすすめることを確認しました。
 守る会と長野県本部は2月14日に、東京高裁に対し要請を行い、弁論再開と無罪判決を強く求めました。
〈無罪要請先〉〒100―8933 千代田区霞が関1―1―4 東京高裁・田中康郎裁判長