「私は犯人ではありません」――裁判所はまたも無実の叫びを聞き入れませんでした。幼女誘拐・殺人事件の犯人とされた菅家利和さんが一、二審、最高裁と無期懲役を言い渡され、再審(裁判のやり直し)を求めている栃木・足利事件に対し、宇都宮地裁(池田壽美子裁判長)は2月13日、再審請求を退ける不当決定を行いました。
裁判所の門前で待ち構えていた支援者の前に、「不当決定」の垂れ幕を持った弁護士の姿が……。「あーっ」「不当決定だ」、再審開始への期待は落胆と怒りへと変わりました。支援者はすぐに裁判所に対し、「不当決定に抗議する!」「菅家さんは無実だ!」とシュプレヒコールを挙げ、抗議しました。
DNA鑑定と
「自白」で有罪
事件は、1990年、栃木県足利市で、当時4歳の女の子が誘拐され、渡良瀬川河川敷で死体が発見された幼女誘拐・殺人・死体遺棄事件で、菅家利和さんが犯人とされたものです。警察は1年以上にわたり菅家さんを尾行し、ゴミとして捨てたティッシュを無断で「押収」し、そこについていた体液のDNA型が、被害者の下着に付いていた犯人のDNA型と一致したとして逮捕。菅家さんは、ウソの「自白」とDNA鑑定を理由に無期懲役の判決をうけました(2000年に確定)。その後、02年に千葉刑務所から再審を申し立てました。
審理尽くさぬ
決定許せない
弁護団は、新しい証拠を提出し、菅家さんと犯人のDNA型は一致せず、警察のDNA鑑定は誤りであること(押田鑑定など)、また有罪判決は手で首を絞めて殺した(扼(やく)殺)としているが、実際には扼殺の痕はなく、後方から首をもって水溜りに顔を押し付けて溺死させた可能性が高いこと(鈴木鑑定など)、菅家さんの「自白」は客観的証拠と食い違い信用できないことなどを明らかにしてきました。また、最後まで、裁判所自身によるDNA型の再鑑定を求めてきました。
これに対し、裁判所は、次のような不当な判断を行いました。
▼DNA鑑定について
裁判所はDNA型の再鑑定を最後まで拒みました。他方で、弁護団が、獄中の菅家さんから毛髪を弁護人に送付してもらい、それを押田氏に鑑定してもらった証拠について、その毛髪が菅家さんのものかどうか裏づけがないとして、鑑定の内容に踏み込まずに切り捨てました。
▼殺害方法について
鈴木鑑定については「一応傾聴するに値する」とする一方で、扼殺の可能性まで否定するものではないと、決めつけました。
弁護団は、これらの判断に対し、押田鑑定の毛髪の裏づけについては、その立証を求めずに切り捨てたのは不当であり、鈴木鑑定についても可能性をもって否定するなど審理不尽だと述べ、再審の扉を開いた最高裁の白
鳥・財田川決定に従っていないと批判しました。白鳥・財田川決定は、再審で出された新しい証拠と確定前の証拠(旧証拠)を総合的に判断し合理的な疑いがあれば再審を開始するとしていますが、今回の決定は、新証拠を一つひとつ個別に判断して、その新証拠だけで確定判決を覆すことを求めており、再審のハードルを不当に高くしています。
これは、「無辜(むこ)の救済」という再審の理念を後退させるものです。
決定に負けず
再審勝ちとる
無罪まで頑張る
菅家利和さん
今度の裁判官はわかってくれると思っていた。どうしてわかってくれないのか。いま目の前に裁判官がいたら文句を言いたい気持ちだ。
一回でも裁判所に呼んでもらい話をさせてもらいたかった。自分の話も聞かずに棄却決定を出すのはおかしい。鑑定をやらないで決定を出すのなら、開始決定だと思っていた。直接自分の話も聞かないし、DNA鑑定もしない。それだったらどうして再審を開始しないのか。
ここまで支援してくれたみなさんには、本当に感謝しています。これからも無罪になるまで頑張るので、よろしくお願いします。
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決定後、県庁記者クラブで、記者会見と支援者への報告が行われました。弁護団は、決定の問題点を指摘し、即時抗告し、高裁で再審開始を勝ちとる決意を述べました。また、菅家さんのコメント(別掲)も紹介され、面会した弁護人から不当決定を聞いた菅家さんは「あー」と声をあげ、うつむき、涙声で弁護人と会話したことが報告されました。
支援者は、不当決定に負けず、必ず再審を勝ちとり、菅家さんの冤罪を晴らそうと決意を固め合いました。
〈抗議先〉 〒320―8505 宇都宮市小幡1 ― 1 ― 38 宇都宮地裁・池田壽美子裁判長