2008年1月25日号
 
 
  大分・選挙弾圧大石市議事件
判決日取り消し審理尽くせ
最高裁が突然、判決日を1月28日に指定

 大分・選挙弾圧大石市議事件の上告審で最高裁第二小法廷(中川了滋裁判長)は、1月9日、判決を1月28日(月)午前11時45分に行うと弁護団に通知してきました。豊後高田市議会議員の大石忠昭さんと弁護団は、福岡高裁の罰金15万円の不当判決に対して上告し、上告趣意書を昨年12月4日に提出したばかりでした。「大石さんを守る会」と国民救援会は、最高裁に対し、判決期日を取り消して口頭弁論を開き、慎重な審理を行ったうえで、無罪判決を出すように求める要請を強めるよう呼びかけています。1月17日には緊急の最高裁宣伝・要請行動も行われました。
 選挙弾圧大石市議事件は、大石さんが選挙公示日前に行った後援会員に対する後援会ニュースの配布行為が、憲法と国際自由権規約に保障された正当な行為であって、公職選挙法の不当な規制こそが真正面から問われる裁判です。とくに、人権擁護の国際的発展のもとで、国際自由権規約を批准した日本が、国際条約を国連の解釈にもとづいて、国内法として正しく適用させることが憲法上も求められています。国際自由権規約が国内法として効力を生じることは、公選法弾圧祝(ほうり)事件で最高裁が認めています。大石事件では、それを正しく適用させることができるかどうかが問われています。今秋には、国連で国際自由権規約の実施状況に関する日本政府に対する審査が行われることになっています。
 今回、最高裁による異例の早期の判決期日指定は、上告趣意書の内容を真摯に検討し、憲法と国際自由権規約に保障された基本的人権を守る司法の役割と責任を投げ捨てたものであり、社会進歩に対する反動です。全国から最高裁への要請をお願いします。
〈要請先〉〒102―8651 千代田区隼町4―2 最高裁判所第2小法廷・中川了滋(りょうじ)裁判長
 FAX03(3221)8975(事務総局秘書課)

 
 
取調べの全過程の録音・録画(可視化)の実現を!
 

鹿児島・志布志選挙事件や富山・氷見冤罪事件の捜査への批判を通じて、取調べの録音・録画(取調べの可視化(かしか))の実現を求める声が広がっています。国民救援会は、冤罪をなくすために取調べの全過程の可視化を求めています。本稿では、取調べの可視化についてまとめました。また、取調室でどのようにウソの「自白」が強要されるかについて東京・町田痴漢冤罪事件のAさんに体験談を話していただきました。なお、まとめるうえで日本弁護士連合会発行の「取調べの可視化(録画・録音)の実現に向けて―可視化反対論を批判する」を参考にしました。

取調べの可視化 なぜ必要か

取調べの可視化とは

 「取調べの可視化」とは、警察や検察が密室で行う取調べを録音・録画して、その取調べが違法に行われていないかどうかについて後に検証できるようにすることです。
 いま取調べの可視化の実現を求める世論が広がっています(各紙社説参照)。また昨年12月には、警察官の取調べメモを開示するよう命じた決定で東京高裁が、「取調べ状況の立証には、その過程を録音・録画したものが最も客観的で望ましい」との見解を示しています。
 世論の広がりの背景には、相次ぐ冤罪事件の発生に加え、来年から予定されている裁判員制度の実施もあると考えられます。これまでの裁判では、自白が任意にされたものかどうかの審理に長時間費やされることが多く、一般の国民が裁判員になる裁判ではこのような争いを避けるべきだとの意見が多数になっています。衆参両院の法務委員会も、裁判員制度の実施に伴い、取調べの可視化の検討を求める付帯決議を行っています。また、昨年の臨時国会で、民主党が、被疑者の取調べの全過程の録音・録画を義務付ける法案を参議院に提出しています。

自白偏重の捜査・裁判

 取調べの可視化がなぜ必要なのでしょうか。
 最も大きな理由は、ウソの「自白」による冤罪をなくすためです。日本では、逮捕されると、朝から夜遅くまで、狭い警察の取調室で「自白」を強要されつづけます。被疑者は、警察の留置場(代用監獄)に身柄を長期に勾留(最大23日間)され、「自白」するまで取調べを受けます。この長時間の「自白」強要に加え、警察において24時間監視され、外部との連絡も絶たれ孤立化させられるなど精神的に追い込まれていきます。正常な思考は停止し、展望をなくしたところに、「自白しないと死刑になるぞ」「お前の家族も罪を認めて謝ってほしいと言っているぞ」「目撃者がいる」「ここでは認めて、裁判になってから言いたいことを言え」など、脅しやすかし、偽りで攻め、ウソの「自白」をさせるのです。このような取調べによって、ウソの「自白」をしてしまうことは心理学的にも明らかにされています(岩波新書・浜田寿美男『自白の心理学』)。
 さらに深刻な問題は、ウソの「自白」を裁判所が認めてしまうことです。裁判で、「不当な取調べをうけてウソの自白をしました。私は本当はやっていません」と無実を訴えても、取り調べた警察官が「不当な取調べなどやっていない。みずから、『すみませんでした』と涙を流し自白をした」などと偽証し、それを裁判所は信用し、有罪判決を言い渡すのです。
 この冤罪の構造について、ジャーナリストの江川紹子さんは、もっとも責任が重いのは裁判官だと指摘します。裁判官が科学的証拠よりもウソの「自白」を重視する、そのため捜査官も有罪にするために「自白」をとることにまい進するという悪循環を生んでいる、と厳しく批判します。
 このような「自白」偏重捜査・裁判は、科学的・実証的な捜査の軽視につながり、その結果、冤罪を生み、同時に適正な捜査を妨げ、真犯人を逃すことにもなってしまうのです。冤罪を生まないためには、裁判官による「自白」偏重裁判を正し、そしてウソの「自白」を生む制度を改善しなければなりません。そのために、取調べの全過程の可視化が必要です。

〈自白偏重の裁判例〉

 殺人などで死刑が確定している奥西勝さんが無実を訴えている三重・名張毒ぶどう酒事件で、名古屋高裁刑事1部は、最新の科学的鑑定結果などから「自白」を再検証し再審(裁判のやり直し)開始決定を行いました。しかし同高裁刑事2部は、科学的鑑定を無視し、以下のように「自白」を重視し、開始決定を取り消しました。
 「請求人(奥西さん)が、自らが極刑となることが予想される重大犯罪について、このように、自ら進んで、あえてうその自白をするとは考えられない。」
 死刑確定後に、再審無罪を勝ちとった免田、財田川、松山、島田の4事件すべてでウソの「自白」をさせられ、それが有罪の決め手になっています。裁判所が起こしたみずからの過ちをなんら反省せず、「自白をしている」からと、無実の死刑囚の訴えを退けたのです。

憲法、人権規約の理念から

日本国憲法

 日本国憲法は、拷問の絶対禁止や自白偏重の捜査や裁判の排除を明記しています。

第36条 公務員による拷問及び残虐な刑罰は、絶対にこれを禁ずる。
第38条 何人も、自己に不利益な供述を強要されない。
2 強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない。
3 何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされ、又は刑罰を科せられない。

 これらの規定には、戦前行われた自白強要に対する深い反省が込められています。明治時代初頭の改定律令という法律では、「罪ヲ断スルハ口供結案ニ依ル」、つまり有罪にするには自白がなければいけない、とされていました。そのための拷問も許されていました。その後、証拠にもとづき判決するよう法律は改正されたものの、拷問による「自白」強要はつづき、多くの人たちの人権が侵害されました。
 憲法が制定されて以降も、死刑再審無罪4事件をはじめ、数多くの冤罪事件が起こされ、その多くでウソの「自白」が有罪の決め手になりました。そして、志布志選挙事件や氷見冤罪事件、そして痴漢冤罪事件などいまも後を絶ちません。

国際人権規約

 国際人権規約(自由権)にも、「自己に不利益な供述又は有罪の自白を強要されないこと。」(第14条)をはじめ、被疑者・被告人の権利が規定されています。
 1998年11月、国際自由権規約委員会は、日本政府に対して「取調べの可視化」を求め、次のような勧告を行いました。「委員会は、刑事裁判における多数の有罪判決が自白にもとづくものであるという事実に深く懸念を有する。自白が強要により引き出される可能性を排除するために、委員会は、警察留置場すなわち代用監獄における被疑者への取調べが厳格に監視され、電気的手段により記録(録音・録画―編集部注)されるべきことを勧告する」。また、昨年行われた国連拷問禁止委員会も、取調べが録音・録画、弁護人の立会いで監視されることを求めています。
 取調べの可視化の実施は世界に広がっています。右の表にあるように、欧米諸国に加え、アジア諸国でも取調べを可視化している国が増えています。なお、取調べに際して弁護士の立会いも行われています。
 日弁連によれば、可視化をした国では、当初導入に反対していた警察側からも、@録音をしても自白を得ることが妨げられない、A取調べのやり方を非難されることがなくなった、B警察官を教育し、取調べの技術が進歩した、など好意的な評価がされています(イギリス)。また、「可視化したら、真犯人が自白しないのではないか」との意見に対し、可視化した国々において自白する率は大幅には変化していないと報告されています。また、お隣韓国では、そもそも取調べは「密室」でなく、監視カメラのついた大部屋で他の被疑者の取調べと平行して行われています。

冤罪をなくすため いまこそ実現を

抵抗する警察・検察

 このような取調べの可視化を求める動きに対し、警察や検察も可視化について検討せざるを得なくなっていますが、全過程の可視化については抵抗しています。
 国家公安委員会は昨年11月1日、「警察捜査における取調べの適正化について」という異例の決定を行いました。そのなかで、取調べの在り方について「国民・社会から厳しい指弾を受けて、警察捜査に対する信頼が大きく揺らいでいる」とし、「取調べの一層の適正化を図っていくことが必要である」としています。しかし、対策として取調べに対する監督の強化や取調べ時間の管理の厳格化などはあげても、可視化について具体的にはふれていません。警察庁も、取調室にのぞき窓をつくる程度で「可視化」したとしようとしており、吉村博人長官は記者会見で、全過程の可視化について、「取調べの機能を完全に阻害することになる。到底あり得ない」と述べています。
 また、検察庁も、取調べの一部を録画・録音することを始めてはいますが、全過程の可視化には反対しています。警察や検察の都合のいい部分だけを録画・録音し証拠とすれば、かえって冤罪を増やすことになってしまいます。

冤罪なくす改善を

 いまでも多くの人たちが冤罪で苦しみ、無実を訴えています。これまでみてきたように、冤罪をなくし、適正な捜査をすすめるために、取調べの全過程の録音・録画などの可視化を実現しなければなりません。
 国民救援会は、取調べの可視化の実現に加えて、被疑者と弁護士との接見や相談を十分に保障すること、黙秘権の保障を徹底すること、被疑者・被告人の身柄を警察の留置場に置く代用監獄制度を廃止し、拘置所に身柄を置くこと、不当な長期身柄拘束を行わないことなどの改善を求めています。

〈 資料 〉 可視化を求める各紙の社説

▽「自白偏重の捜査体質には、国内外から批判が強かった。欧米諸国やオーストラリア、台湾など、取り調べの全過程の録画・録音ばかりか、弁護人の立ち会いを認めている国・地域もある。全面可視化はもはや国際標準≠ニいうべきだ。」(東京新聞2007年10月12日)
▽「あるべき刑事司法の姿は、自白に頼らず、客観証拠の積み重ねによる立証であることを忘れてはならない。……取り調べの様子を録音・録画する「可視化」の措置も、現行では検察官が認めた場合に限定されているが、全過程を記録しなければ意味がないのと同じである。」(神奈川新聞2007年8月31日)
▽「冤罪を生む土壌をなくすには警察・検察など全国の捜査機関で可視化を実行すべきだろう。」(北日本新聞2007年10月11日)
▽「可視化は自白偏重を断ち切り、無実の人が処罰されることがないよう刑事司法を変える上で大きな意味がある。導入を急ぎ、従来型の捜査から脱皮するきっかけにしてほしい。」(宮崎日日新聞2007年10月16日)

 

各国の取調べの可視化の現状

  弁護人立会 録音・録画
イギリス
アメリカ
かなりの州で○
フランス
○(少年事件)
ドイツ
×
イタリア
オーストラリア
台 湾
韓 国
○(一部)
香 港
モンゴル
○(一部)
日 本
×
○(極めて例外的に一部のみ)
(日弁連「取調べの可視化で変えよう、刑事司法!」より)
 
 
  福岡・引野口事件
母、取り戻す年に
3月5日一審判決 片岸さん兄妹先頭に宣伝

 3月5日に福岡地裁小倉支部で判決を迎える引野口事件は、本年の活動を1月12日、地元北九州市八幡西区の黒崎駅前での宣伝でスタートしました。
 この街頭宣伝は、昨年6月から毎週続けているもので、今年の1回目は寒風のなかでの宣伝になり、片岸さん兄妹を先頭に弁護団を含め11人が参加。長男の和彦さんがマイクを握り、「なんとしても母を取り戻す年にしたい。最後の最後まで署名や要請はがきのご支援を」と必死に訴えました。多くの方が立ち止まり、署名89筆が集まりました。
 片岸兄弟を支える会、片岸みつ子さんを守る会と弁護団では、判決を前に、無罪判決を求め、「市民の集い」(別項)を開きます。
全国からご協力いただいた署名は3万6千筆を超え、要請はがきも目標を大きく超えて5400枚に達しました。無罪判決にむけて、ひきつづきご協力をお願いします。 (山本和也)
*片岸みつ子さんの無罪判決を求める市民の集い=2月3日午後2時、北九州市・八幡西生涯学習センター大ホール、志布志・踏み字事件被害者・川畑幸夫さんのあいさつ、松本サリン事件被害者・河野義行さんの記念講演など
〈無罪要請先〉〒803―8531 北九州市小倉北区金田1―4―1 福岡地裁小倉支部・田口直樹裁判長

 
  死刑執行の停止を
国連総会が初の決議採択
日本は反対票

 国連総会は12月18日、死刑執行の一時停止などを求める決議案を104カ国の賛成多数で採択しました。こうした決議が採択されたのは初めてのことです。採択では、日本、アメリカ、中国など54カ国が反対、韓国など29カ国が棄権しました。この決議には法的拘束力はありませんが、死刑廃止を求める国際的な世論に影響を与えています。
 毎日新聞によれば、採択された決議案は、@死刑は人間の尊厳を否定し、死刑廃止は人権保護に貢献すると確信するA世界的な死刑廃止や執行一時停止の動きを歓迎するB死刑を廃止した国には死刑制度を復活させないことを求める、としています。その上で、死刑制度のある加盟国に対し、死刑囚の権利の保護、死刑に関する国連事務総長への情報提供、死刑適用の段階的制限、死刑廃止を視野に入れての執行の一時停止などを求めています。
 死刑に関連し、日本政府は、国際自由権規約委員会からも第4回審査(1998年)の最終意見で「死刑の廃止に向けた措置を講ずること」との勧告を受けていますが、真摯に検討を行っていません。今回採択された決議について鳩山邦夫法務大臣は、「世論は死刑制度や死刑執行にかなり支持がある。死刑を存続するかしないかは内政の問題」と、記者会見で述べています。

 
  宮城・北陵クリニック事件
守さんの処遇に弁護士会が勧告

 仙台弁護士会は12月13日、北陵クリニック事件・守大助さんの処遇を改善するよう、仙台拘置支所に対し勧告を行いました。
 勧告では、手紙などの発信が1日2通以内に制限されていることについて、「憲法で定められた表現の自由を制限し、人権侵害に当たる」として、制限の撤廃を求めています。また、コンタクトレンズの目薬の購入を不許可にしたことについて、許可をするよう求めています。

 
  山形・明倫中裁判
少年らの再審めざし「15年目の集い」開く

 1993年、山形県新庄市の明倫中学校で当時中学2年生のK君が体育館の用具置き場の体育用マット内で死亡していたことで、7人の少年が殺人等に問われ、無実を訴えている明倫中裁判の「15年目の集い」が1月13日に新庄市内で行われ、40人が参加しました。
 オープニングコンサートとして池田敏美さんによるヴァイオリン演奏があり、この日がK君の命日であることから追悼の意を込めた『アベ・マリア』など4曲の演奏が行われました。つづいて国民救援会中央本部の小川国亜事務局次長、布川事件の柴田五郎弁護団長が来賓あいさつを行い、柴田弁護士は布川事件に加えて、「無罪」を勝ちとった少年事件の例を報告し、「被告・弁護団・支援団体の3者が団結して、無実の確信を裁判官に伝える努力をやりきって、再審無罪を勝ちとろう」と激励しました。
 事件学習では、支援する会の高嶋昭さんが、確定判決の矛盾点などを説明し、植田裕弁護団長から再審をめざす準備状況が報告されました。家族からは「15年間みなさんに支援してもらって感謝しています」「これからも子供を信じてたたかっていきます」と、お礼と決意が述べられました。
 学習後、犯人とされた少年の一人、A君のアリバイに関して現地調査を行い、放課後学校から約1キロ離れた友人宅にいたA君が、「犯行」に間に合うように5分以内で雪道を歩いて学校に戻ったとする「警察の筋書き」が物理的に不可能であることを確認し、無実の確信を深めました。
 まとめの会議で参加者は、今後も真実を学び知らせ、元少年たちの再審を実現するように頑張ることを誓い合いました。